また逢う日まで
990円(税込)
2023-06-06
ロマン・ロランの反戦小説『ピエールとリュース』を水木洋子と八住利雄が翻案・脚色した。戦争によって引き裂かれた恋人の姿を描き、戦争の残酷さを訴えている。
水木洋子にとって八住利雄は映画脚本家となるきっかけを与えた師であり、本作は水木洋子の出世作となる。
第24回キネマ旬報ベスト・テン第1位
1950年公開/製作:東宝/監督:今井正/出演:久我美子、岡田英次、滝澤修/上映時間:111分
990円(税込)
2023-06-06
ロマン・ロランの反戦小説『ピエールとリュース』を水木洋子と八住利雄が翻案・脚色した。戦争によって引き裂かれた恋人の姿を描き、戦争の残酷さを訴えている。
水木洋子にとって八住利雄は映画脚本家となるきっかけを与えた師であり、本作は水木洋子の出世作となる。
第24回キネマ旬報ベスト・テン第1位
1950年公開/製作:東宝/監督:今井正/出演:久我美子、岡田英次、滝澤修/上映時間:111分
990円(税込)
2023-06-06
八住利雄と木村武の共同オリジナルシナリオ。当時、冷戦により二分化され緊張した国際情勢に対し、警鐘を鳴らす内容になっている。戦後16年の日本に起こった第三次世界大戦と人類最期の日を描く。
1961年公開/製作:東宝/監督:松林宗恵/出演:フランキー堺、宝田明、山村聡/上映時間:110分
990円(税込)
2023-06-06
税金滞納で家財道具と蔵書を差押えられた坂口安吾が、国税庁を相手に闘いを起こした記録をエッセイにした。坂口が作成した税務署対策ノートは5冊に至る。
坂口安吾原作の発表から6年後、八住利雄脚色により映画化された。
1958年公開/製作:東京映画/監督:豊田四郎/出演:森繁久彌、望月優子、淡島千景/上映時間:106分
990円(税込)
2023-06-06
36年、谷崎潤一郎が雑誌「改造」に発表した長編小説。谷崎自身が経験した三角関係の恋愛事件がモチーフとされており、八住利雄が脚色した。
猫のリリーを中心に、2人の女と1人の男の三角関係を描いた物語である。
1956年公開/製作:東京映画/監督:豊田四郎/出演:森繁久彌、香川京子、山田五十鈴/上映時間:135分
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990円(税込)
2023-03-14
1957年の松竹映画『集金旅行』(井伏鱒二原作)のリメイクとして制作。
突然子どもを押し付けられたカップルが子どもの父親を探すため、旅に出るロードムービー。
西日本のローカルカラーを巧みに取り入れつつ、女のルーツを辿る旅も加わり、物語が充実していく。
師弟関係である前田陽一と南部英夫に、荒井晴彦が加わり、早稲田出身トリオが共同執筆した喜劇の傑作である。
1979年公開/制作:松竹/監督:前田陽一/出演:桃井かおり、渡瀬恒彦、河原崎長一郎/上映時間:91分
990円(税込)
2023-01-29
新藤兼人に「傑作である」と言わしめた本作は、菊島隆三が自身初の製作を務めたオリジナルシナリオ。バーのマダムとして華々しく働く女性に潜む哀歓、生々しい男女の関係を巧妙に描いた名作である。菊島の綿密に書き込まれたドラマが、成瀬巳喜男の織りなす巧みな女性表現を引き立たせる。
1960年公開/製作:東宝/監督:成瀬巳喜男/出演:高峰秀子、森雅之、仲代達矢/上映時間:111分
990円(税込)
2023-01-29
家庭も顧みず、仕事に没頭する二流球団の監督を主人公にしたホームドラマである。
菊島隆三の父は息子の野球を嫌い、対立をしていた。けれど菊島隆三は野球をやめることをせず、父が死ぬまで対立し続けた。その反動も相まって、菊島は野球モノを数作品執筆している。また東宝でも野球チームに所属していた。
1955年公開/製作:東宝/監督:丸山誠治/出演:志村喬、夏川静江、岡田茉莉子、三船敏郎/上映時間:109分
990円(税込)
2023-01-29
吉屋信子の同名小説を、菊島隆三が脚色し映画化した。一時間足らずの中編映画ながら、話題になった。
女っ気のないガス集金人が、ガス代を支払えない病弱夫を持つ貧乏妻に歪んだ欲望を抱く。彼の軽い気持ちから始めたふじだらな企みが、悲劇を生むことになる。
菊島自身がカリエスを病み、妻にも先立たれた苦い体験がこの作品の背景にあるように思われる。
1956年公開/製作:東宝/監督:千葉泰樹/出演:加東大介、津島恵子、宮口精二/上映時間:46分
990円(税込)
2023-01-29
菊島隆三が『気違い部落』に続き、監督・渋谷実と組んで喜劇を製作したのが本作である。
ある老人の財産をめぐって、二人の悪女が欲望に駆られる姿を風刺的に描く。
「スリラーコメディというジャンルに大変興味をもっていた、機会があったら一度挑戦してみたいと思っていた」と菊島は語っている。
1958年公開/製作:松竹大船/監督:渋谷実/出演:東野英治郎、山田五十鈴、岡田茉莉子/上映時間:110分
990円(税込)
2023-01-29
坂本龍馬暗殺の真相を追う本格時代劇ミステリー。これまで日活側が企画し、次々と新国劇総動員の時代劇を手掛けてきたが、本作は菊島が提出したオリジナルシナリオで映画化した。
菊島が歴史書を読み漁りたどり着いた坂本龍馬暗殺犯の仮設。明治維新とは何だったのか、歴史を丁寧に紐解いた菊島だから出せた綿密なストーリーである。
1955年公開/製作:東京プロ/監督:滝沢英輔/出演:島田正吾、辰巳柳太郎、宮城野由美子/上映時間:108分
990円(税込)
2023-01-29
1961年、松竹を退社した大島渚は〝松竹ヌーヴェルヴァーグ〟の同志たちで映画製作会社「創造社」を設立する。翌62年、東映で唯一撮った本作は、大島初の時代劇作品であり、『太陽の墓場』の石堂淑朗と共にシナリオを執筆。リーダーである天草四郎の人間像を、キリシタン史すべての史料の中から自由に取材し創り上げた。歴史に対する観点を世に問うた意欲作である。
1962年公開/製作:東映京都/監督:大島渚/出演:大川橋蔵、大友柳太郎、丘さとみ/上映時間:101分
990円(税込)
2023-01-29
山内久はこう語った。「丁度映画はピークを越えて、本数自体がどんどん減っていった。各社がドラマ作りに精根を傾けて遂にドラマの黄金時代を迎える。その流れで作られたのが今作。ドラマ「若者たち」の大ヒットを土台に映画を作れということになって、私のテレビ用脚本六本などをまぜてシネマ・シナリオを作成した。」
最終的な観客動員数は150万人と大ヒットし、山内はテレビドラマの世界でも活躍することとなる。
1967年公開/監督:森川時久/出演者:田中邦衛、橋本功、山本圭/上映時間:97分
990円(税込)
2023-01-29
学生の吉岡努はミツという女工の体をもてあそんで、棄てた。努はミツが妊娠したことなど知る由もなく、サラリーマンになっていた。
山内久のシナリオには人間の生き方がテーマとしてある。理想の人間像を追い求め、誠実に人間の本性を描くことで、ミツの純真さ、愛情、そして努の苦渋を浮き彫りにする。
原作の遠藤周作はミツを聖母のように創り上げた。山内はそんなミツを見事に脚色し女性の輪郭をより鮮明にする。
1969年公開/製作:日活/監督:浦山桐郎/原作:遠藤周作/出演:河原崎長一郎、浅丘ルリ子、小林トシエ/上映時間:116分
990円(税込)
2023-01-29
米軍基地の街、横須賀にて、米軍に寄生するチンピラを主人公に、戦後の日本人を風刺的に描いた作品。
監督・今村昌平は山内久に「人間の欲望がひしめき合う重喜劇をやりたい」と語った。生々しく重い〝人間の真実〟をダイナミックに暴いた今村に対し、山内はどっしりと受けとめ、且つ繊細に構成していくことで傑作が生まれた。
第12回ブルーリボン賞作品賞受賞
1961年公開/製作:日活/監督:今村昌平/出演:長門裕之、吉村実子、丹波哲郎/上映時間:108分
990円(税込)
2023-01-27
有馬頼義が軍隊時代に出会った実在人物をモデルにした小説『貴三郎一代』を菊島が脚色した。
軍隊の中で、体罰にも全く屈しない不死身の新兵・大宮を勝新太郎が演じている。菊島自身、戦時中に将校に殴られたことがあり、軍に対する恨みがあった。その体験が本作に大きく影響しており、型破りな兵隊を描くのが非常に愉快だったと後述している。
1965年公開/製作:角川大映スタジオ/監督:増村保造/出演:勝新太郎、田村高廣、淡路恵子/上映時間:102分
990円(税込)
2022-11-30
カテゴリーは「戦争」だが、主人公の戦場カメラマンである一ノ瀬泰造が戦争をするわけではない。シナリオにこんな会話がある。タクシーの運転手「ばってん兵隊にとられたふうで、ご心配でしょ」/泰造の父親「泰造が持っとるとはカメラですけん。鉄砲じゃなかですけん」。泰造は戦場でたくさんの死と出会う。そして、その度にシャッターを切る。子供の死も例外ではない。マダムが言う「よくも撮れるね! よくもこんな時に写真なんか……(絶句)」。戦場カメラマンとは何なのか。戦争とは何なのか。人間とは何なのか。シナリオは一ノ瀬泰造を英雄視せず、彼の心のあり場所に寄り添うように書き進められていく。
底本:「00年 年鑑代表シナリオ集」(シナリオ作家協会編、映人社刊)
990円(税込)
2022-11-30
この映画シナリオは「恍惚の人」と並んで、いわゆるボケ老人問題を扱った先駆的な作品である。1985年にはまだ認知症という言葉がなく、登場する医者は老考古学者を痴呆症と診断するのだった。現代は少子高齢化がますます極まり「ボケ老人」も増加の一途をたどっている。親がまたは自分自身が認知症になることは多くの人が確率の高い事例としてあらかじめ覚悟しているのではないだろうか。シナリオが書かれた時代に比べると、現在は医療体制が違っているが、家族のやり切れない思いは不変である。その意味において、シナリオはまったく古さを感じさせない。
「花いちもんめ」は、老考古学者が痴呆症で壊れていく様を通して、彼を介護することによって壊れていた家族が再生していく、人間のはかなさと強さを描いたドラマである。
990円(税込)
2022-11-28
大島渚の京大における体験と石堂淑朗の東大の体験を重ね合わせる形でシナリオをつくり始めたが、二人は大いに迷い、映画評論家、学生、俳優にも意見を聞きながら撮影を進めた。映画は1960年10月9日に封切られたが、12日に浅沼稲次郎が刺殺されると、映画会社は一方的に上映を中止する。大島渚と松竹の対立を決定的になり、大島は松竹を退社。続いて、石堂淑朗、田村孟も辞表を出し、小山明子、小松方正、戸浦六宏らも参加して、創造社が設立された。「日本の夜と霧」によって松竹ヌーベルバーグは終焉を迎え、以後、大島らは独立プロとして映画にかかわっていくことになるのである。
底本:「日本の夜と霧」(現代思潮社、1972年第8刷発行)
990円(税込)
2022-11-28
1960年6月3日に封切られた「青春残酷物語」(大島渚・脚本監督)が興行的にも成功したため、松竹はすぐに続編を作ってほしいと大島に要請した。これが大島との初の共作となる石堂淑朗は、大阪の西成で「青春残酷物語」を作るということだけを念頭に、現地でシナリオハンティング。6月16日には二人でシナリオ執筆にとりかかっていた。石堂と大島の共作スタイルは、大島が発案し軽く相談のうえ石堂が一気に書き上げ、大島がそのシナリオを直しながら撮影するというものだった。なんとシナリオを書き始めてから映画が完成するまで2カ月という早業。かくして「太陽の墓場」は60年8月に封切られ、戦後のスラム街に生きる無知だが生きることにしたたかな人々を活写して、興行的にも成功を収めたのだった。
底本:「日本の夜と霧」(現代思潮社、1972年第8刷発行)
990円(税込)
2022-11-28
近親相姦というタブーに正面から挑んた石堂淑朗の野心作。監督の実相寺昭雄は、この作品に専念するためTBSを退社、長編劇映画デビューを飾った。姉弟の姦通、夫婦と間男の三つ巴、継母と息子の情交などが、仏教を背景とした日本古来の風景の中でエロチックに息づき、世の中の常識に挑みかかる。当時、大ヒットとなった。
Kindle購入ページへ990円(税込)
2022-11-28
石堂・実相寺コンビの「無常」に続く第二作。セックス、宗教を通して日本とはどこに存在するのかを追求する。石堂淑朗はシナリオ「曼陀羅」について当時のキネマ旬報誌上で次のように書いている。
「無常」もこんどの「曼陀羅」も別にポルノをめざしているわけじゃありません。主題はあくまで”家父長構造”の追求ということで、この二本の映画はつながっています。
どこの家庭においても、その権力の強弱の差こそあれ、家父長の存在というものは日本独特の形態で、父親の構造は私にとって興味つきない問題でありました。
で、この家父長構造というタテの構造にセックスはいかにからみ合うのか。性関係すなわち人間関係は非常に複雑なので、このことをわかりやすくやったまでであります。特に「無常」で近親相姦という閉鎖状況におかれた性関係を、「曼陀羅」では、他人同志カップル二組に移し替え、この問題を拡大して考えてみたわけです。
すべてを合理的に収斂してしまうコンピューター社会と背合わせに、ますます栄える創価学会、という今の日本。宗教すなわち非合理を収斂出来ない合理はやはり非合理にすぎないのではないでしょうか。このつかみどころのない日本と、”家父長”という日本固有のナショナリズムはどこかでつながっているようです。
990円(税込)
2022-11-28
石堂・実相寺コンビによる「無常」「曼陀羅」に続く日本の風土と日本人の精神構造を描く三部作の完結編。風土にも精神構造にも経済原理の高度成長の波が押し寄せ、富を享受しているはずの日本はもはや崩壊寸前だ。旧家の伝統を一人で守ろうとする篠田三郎は、お金の計算に余念がない一家の中にあって、まるで墓守のような存在。彼は古きよき日本の象徴といえるかもしれない。しかし、彼には誰も知らない出生の秘密があった……。
底本:「映画評論」
990円(税込)
2022-11-28
男4人と女1人の破天荒な青春を描いた、おかしくてちょっぴり哀しいアクション映画。ラスト近く追い詰められた男4人がとった意外な行動とは!? 松田優作の映画初主演作品でもある。
神波史男はシナリオづくりについて以下のように触れている。
「(略)企画から本造りの過程で今回ほど好き勝手にやらせて貰えたのは初めての経験だった。普通、シナリオライターと言うものは、寄ってたかって突つき廻されるのが宿命みたいなものであり、それはそれで近代主義的な意味での作家主体と言ったものが、いやおうなくへそぎ落とされ、叩き潰されるという点でオモシロイのだけれど、他方では、直し直しの辻褄合わせに疲れ果て、面白いのか面白くないのか、当ろうが当るまいが後は知らん、そっちの勝手となりやすい。
しかし、今度の場合、私も恐らく初めて素直に興行的な成功を祈る心境にある。」
ぜひ、神波史男の「好き勝手」をシナリオで堪能してほしい。
990円(税込)
2022-11-28
「高校大パニック」は、そもそも石井聰亙をはじめとする大学生の自主映画グループ「狂映舎」が製作した23分の8ミリ作品である。それを見た日活の新入社員がリメイクを企画会議に提出して映画化となった。学生たちは自分たちもスタッフに加わることを条件に映画化を承諾。21歳の石井聰亙は日活の沢田幸宏とともにメガホンをとることになった。シナリオは神波史男。学生たちと1週間合宿して激しいやりとりのすえ、シナリオの骨格をつくった。
受験勉強に明け暮れる進学校の教師と生徒たち。同級生の自殺を契機に、一人の少年の鬱積した怒りが爆発。ライフルで数学教師を殺害して校内にたてこもる。なぜ彼がそのような行動に走ったのかは描かれない。シナリオは、あわてふためく教師たち、警察の対応など周りの人間描写を通して少年の行き場を失った心情を浮かび上がらせていく。
990円(税込)
2022-11-28
「若い監督との組み合わせで、今までになかった宮下順子の新しい魅力を引き出してもらえば……」というにっかつの企画のもと、東映で男達の世界を描いてきた神波史男がロマンポルノ・シナリオに挑戦。
神波は「あのロマンポルノの自由な雰囲気の中で何本か仕事させて貰ったのは、僕にとってもすごくありがたかった。好きな作品ばかりです」と「にっぽん脚本家クロニクル」(ワールドマガジン社)で語っている。
底本:月刊「シナリオ」1979年10月号
990円(税込)
2022-11-28
監督の根岸吉太郎と神波史男のコンビは「濡れた週末」に続いて2作目。アリスの名曲「狂った果実」から着想した神波史男のオリジナルシナリオは、田舎から都会にでてきた青年を冷徹に見つめ、突き放し、その悔しさ、やるせなさ、恥辱をラストで一気に爆発させる。若者の狂気と破滅がシナリオから噴出しているのだ。間違いなくロマンポルノの傑作である。ちなみに石原裕次郎主演で同名作品があるが、それとはまったく関係ない。
Kindle購入ページへ990円(税込)
2022-11-28
「クレーマークレーマー」の刑事版を書いてほしいという東映の注文を受けた神波史男のオリジナルシナリオ。「最初から話を大阪の場末に持っていって、エゲツなく薄汚ねえ刑事にしようと思って少しはやる気になった。ねじくれたおぞましいような……そういう奴の中にもヒューマンな処がってとらえ方じゃなく、ゾロっとそのまま犯罪者と並べて……」傑作シナリオ「野獣刑事」は誕生した。工藤栄一監督とは「その後の仁義なき戦い」以来二度目。
Kindle購入ページへ990円(税込)
2022-11-28
檀一雄の長編小説「火宅の人」は、「新潮」に1955年から20年間にわたって断続的に連載された。檀一雄の遺作。この小説の映画化は、深作欣二、十年来の企画。神波史男と深作がシナリオを書いた。
東映から脚本の話がきたとき神波は原作を読んでいなかった。懸命に檀一雄の他の作品や資料を読み、ゆかりの人々を取材。シナリオの師匠的な存在の深作とともに粘りに粘って原作の長さを乗り越え、名作シナリオが完成した。
日本アカデミー賞最優秀脚本賞、作品賞、監督賞、主演男優賞受賞。
底本:月刊「シナリオ」1986年5月号
990円(税込)
2022-11-28
白坂依志夫、増村保造コンビの代表作。製菓会社の宣伝課に配属された新卒の社員が目に見えない「巨人」に飲み込まれていく。若者は、友情も恋人も会社、社会、経済の論理に巻き込まれ、失うのだ。
白坂依志夫のスピード感あふれるシナリオは一気に読ませて、圧巻。ほとんど伏線のない直線的なシナリオだが、リフレインの効果が効いている。服薬の時間を知らせる腕時計のブザー音、カチカチと鳴る火のつきの悪いライターの音。それらは、まるで運命の時を刻んでいるように響くのである。
底本:「日本シナリオ大系3」(シナリオ作家協会編纂)
990円(税込)
2022-11-28
ワンセットで登場人物が3人しかいない舞台劇に近いシナリオ。準備稿では男と女の二人だけの設定だった。白坂の念頭にはウィリアム・ワイラーの「コレクター」があったという。しかし、二人では話がもたず、ジョルジュ・フランジュの「顔のない眼」でいくことに。千石規子を入れて三角関係にしたのである。
原作の主人公(船越英二)は異常性欲者だが、シナリオではやさしい心をもった盲目の人物となっている。彫刻の林立する不思議な空間は主人公の心象風景。そこに閉じ込められた緑魔子の変化、船越英二の変化が意外で面白い。
底本:「日本カルト映画全集 盲獣」(ワイズ出版、1996年刊)
990円(税込)
2022-11-28
白坂依志夫のオリジナルシナリオ。岡本喜八の監督デビュー作。当時の都会の風俗がいたるところに散りばめられキラキラと輝きを放っている。そして、機関銃のように次から次に繰り出されるセリフ。それまでにはなかった斬新なスタイルで、若者たちのエネルギーがシナリオから溢れでている。この年、白坂青年はスピード感に満ちた筆致で「巨人と玩具」も書いている。
底本:「キネマ旬報」第200号 臨時増刊
990円(税込)
2022-11-28
河内という土地を見なければ何も始まらないと、高田と関本は新幹線に飛び乗ったが、運悪く台風に遭遇。雨降る闘鶏場では河内のオッサンに「何しに来たんじゃ、ワレ」と囲まれ、事情を説明すると「最初に挨拶せんかい」とすごまれ真っ青になった。シナリオで一番苦労したのは、「後半は主人公を東京に行かせろ」という会社の要求。舞台を東京にもっていく必然性は何もない。二人は前半の河内編の勢いで東京編を書き上げた。川谷拓三の初主演作品となったこの映画は大ヒットをとばし、一ヶ月後には第二弾「河内のオッサンの唄 よう来たのワレ」が公開された。
底本:「キネマ旬報」1976年11月下旬号
990円(税込)
2022-11-28
84年の年末、関本郁夫は大林宣彦監督から脚色の依頼を受けた。原作は片岡義男の「彼のオートバイ、彼女の島」である。かねてから片岡ファンであった関本は快諾。角川春樹からは「貴和子はアイドルじゃなく、女優として育てたいんです。女優として書いて下さい」と言われる。書き上がった準備稿のラストシーンは悲劇だった。しかし大林監督の要望もあり、決定稿はハッピーエンドになっている。
原田貴和子が、第12回大阪映画祭主演女優賞、第8回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞。
渡辺典子が、第8回ヨコハマ映画祭助演女優賞受賞。
990円(税込)
2022-11-28
「脱獄広島殺人囚」に次ぐ野上龍雄のオリジナル刑務所シナリオ第二弾。たくさんの元囚人に取材し、敗戦直後の過酷な刑務所をエンターテイメントに仕上げた力作である。野上龍雄はこのシナリオについて次のように記している。
「前作では<自由への執念>を、今回は<鎖からの解放>を書いたと一応は言えるかもしれないが、元より、そんな抽象的主題はぼくの念頭にはなかった。このニ作品を通じて、ぼくが目指した実験的な試みは、一瞬後の行為が予断出来ぬ人間に何とかアプローチし、その多様な側面を造型すること。これに尽きる。
だから、今のぼくには上手な芝居、巧妙なプロットは興味がない。こうした人工的、修飾的な業<わざ>よりも、今、必要なのは、中島貞夫氏がよく口にする<それ自身、力のある被写体>だ。」
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2022-11-28
岐阜のやくざ組織をつぶすために大阪の大きな組から鉄砲玉が乗り込んでくる。屈強な鉄砲玉に手を焼く幹部たち。彼らは自分たちがうまく生き残ることしか考えていないようだ。幹部を信じつつも次第に疑念にとらわれる子分の葛藤、その子分の兄で鉄砲玉に女を寝取られるスナック経営者の葛藤、スナックで働きながらやくざに憧れる臆病な若者の葛藤、それぞれの葛藤がラストに向ってねじ曲がりながら収束していく。「鉄砲玉の美学」にも共通するが、正調なやくざ映画とは一線を画する、名も地位もないチンピラ(若者)に焦点を当てた野上龍雄ならではの才覚溢れるシナリオである。
Kindle購入ページへ990円(税込)
2022-11-28
「博奕打ち」シリーズ最後の作品。そして東映ヤクザ映画、最後のオールスターキャスト作品でもある。シナリオは野上龍雄のオリジナル。野上は「シナリオ創作ノート」で次のように書いている。
「所謂オールスター脚本については、笠原和夫氏が述べているように<何人かのスターさんの絢爛たる見せ場と絡みを、交通巡査よろしく捌く>ことが、技術として、何よりも初めに要求される。これは大変な難事である。なぜなら、これを実行するに当たっては、従来通りの日常の現実感を尊重する一方で、舞台の様式美を仮想せねばならず、更にこの両者を一本のシナリオの中で両立させる為には、強靭な戯作者魂とでもいったものが不可欠だからである。生半可に立ち向かってはこっちがバラバラになる。事実、ぼくは何度も立往生し密かに逃亡すら考えた。
台辞ひとつをとりあげてもそうだ。ある節度がいる。これ以上書いたら冗舌になるというギリギリの境の所でセーブしなければならない。無論、このホンがそうなっているというのではない。只、その辺を常に自戒していないと、前述の現実感に支えられた様式美が定着して来ないように思われる。迸るままにこれでもかと思いのタケを熱っぽくブチまける若い映画ではないのだ。」
990円(税込)
2022-11-28
鉄砲玉になって敵地に乗り込んだチンピラの青春を描く。東映ヤクザ映画のような男の美学は、主人公からことごとく剥ぎ取られている。ハリボテのヤクザは哀しい。「真夜中のカーボーイ」を思わせるラストシーンがこたえる。東映ヤクザ映画の傑作を書いてきた野上龍雄のオリジナルシナリオ。
底本:「アートシアター100号 鉄砲玉の美学」(日本ATG、1973年刊)
990円(税込)
2022-11-28
特攻隊の生みの親といわれている大西瀧治郎を主人公に、鋭く太平洋戦争をえぐった名作。74年3月に着手。児玉誉士夫、大西瀧治郎夫人らに取材する。野上龍雄は児玉誉士夫が目を真っ赤にして次のように語ったと「笠原和夫 人とシナリオ」に書いている。「敗戦時、天皇は人間宣言をしたのがまちがいである。まず第一に退位し、首都を去り、伊勢神宮の祭司になるべきだったそれで初めて<国の象徴>になりえたであろう」と。笠原と野上はこの言葉に共感し、作品の中に匂わせた。以下はシナリオに書かれたセリフの抜粋。
大西「日本はそこまで死力を尽して戦ってきたんですか……負けるということはですよ、天皇陛下御自ら戦場にお立ちになって、首相も、閣僚も、我々幕僚も、全員米軍に体当りして斃れてこそ、始めて負けたと云えるんじゃありませんか、和平か否かは残った国民が決めることです……」
小園「天皇陛下、お聞き下さいッ、あなたはあやまちを冒されましたぞ! あなたのお言葉で戦争をお始めになったのに、何ゆえ降伏なさるのでありますかッ……!」
底本:「笠原和夫 人とシナリオ」(シナリオ作家協会、2003年刊)
990円(税込)
2022-11-28
「巨人ゴーレム」(ジュリアン・デュビビエ監督)をベースにした、日本初の特撮時代劇。スタッフは柳田國男の民話を読み込み、背景を戦国時代に設定。大魔神の体は埴輪の武神像を型どり、顔は仁王像ふうにデザインされた。
昭和40年11月に企画が通り、11月中に第一稿、12月10日に決定稿完成。魔神と人間がからむシーンを多くして、これまでの特撮映画にはないリアル感を出した。大映京都のスタッフは、大映東京の「大怪獣ガメラ」、東宝の特撮ものに対抗したといわれている。
「大魔神」は公開されるや大ヒットし、一年間のうちに第二部「大魔神怒る」、第三部「大魔神逆襲」も製作、公開された。シナリオはいずれも吉田哲郎が担当。
底本:「大映特撮コレクション─大魔神─」(徳間書店、1983年刊)。底本の親本は、撮影台本。
990円(税込)
2022-11-28
前田陽一のオリジナル・シナリオで、本作が監督デビュー作となった。東京の吉原と思しき赤線地帯を舞台に、敗戦後から売春防止法(1958年)が施行されるまで、めまぐるしく変化する時代の波にもまれながらも逞しく生きていく女たちを描いた秀作。前田は、登場人物の内面に深く入り込むことを避け、適度なスタンスを保ちながら赤線地帯に集う人々をとらえ、良質の群像劇に仕上げた。
Kindle購入ページへ990円(税込)
2022-11-28
賭場でのいざこざで、颯爽と刀を抜く小林旭。切られて障子に倒れこむヤクザ。すると周りの障子が一斉にパタパと倒れて背景が真っ赤に染まる。赤の中で立ち尽くす小林旭──。「関東無宿」の名高いシーンである。その鮮やかな色彩感覚は清純美学と呼ばれ、熱烈なファンが多い。
原作は朝日新聞に連載されて話題になった平林たい子の「地底の歌」。1956年、同じく日活で映画化されている。
990円(税込)
2022-11-28
監督とプロデューサーの間では、風祭ゆきを主演にしたオリジナルシナリオでいくことが決定していた。13作ほどのシナリオがボツになった。シナリオのタイムリミットは目前。監督は他の仕事中のたかいすみひこに依頼。登場人物4人がそれぞれの思いを抱きながら、入り乱れて情を通じ合うシナリオが完成した。風祭ゆきの「お願いタバコ」が印象的。
「たかいすみひこ」とは、荒井晴彦と高田純の共同ペンネーム。
底本:月刊「シナリオ」1982年4月号
990円(税込)
2022-11-28
八住利雄、53歳のときのシナリオ。同じ年に書いた「浮草日記」と併せて、毎日映画コンクール脚本賞を受賞。「夫婦善哉」は大ヒットし興行としても大成功をおさめ、「おばはん、頼りにしてまっせ」は流行語となった。
大阪弁のセリフが印象的。大阪の薬問屋の長男として生まれた氏ならではの純粋な大阪弁を読むことができる。主演の森繁久彌は自堕落な男。愛人の淡島千景がなんとか立ち直らせようとテキパキ動きまわるが、男はどこまでもぐうたらで功を奏さない。自堕落さにまとわりつくように漂う男と女の愛が、物語のカタルシスを排除する。結局、男はぐうたらなままで成長しない。そこがいい。言葉ではうまく説明のつかない愛のリアリティが浮かび上がる。
底本:「八住利雄 人とシナリオ」(シナリオ作家協会、1992年刊)
990円(税込)
2022-11-28
同名の原作は、岡本綺堂が明治44年に発表した戯曲で、同年、二世市川左團次の夜叉王にて初演された。歌舞伎としては珍しく外国語にも翻訳され、パリではフランス人俳優によって上演された。
八住利雄は原作の主人公を夜叉王から源頼家に変更、頼家が修禅寺に流されるまでの話を創作するなど大幅に脚色した。夜叉王の話は頼家の悲劇を暗示するにとどまり、歴史の軋轢に抹殺された頼家の悲運がメインになっている。
「この映画は外国人にも見せたいという目的をもっているので、歴史的な特殊性には加減が加えられたこと。色彩映画であることが意識されていること」などを作者は創作意図としてあげている。
底本:「映画評論」1955年5月号
990円(税込)
2022-11-28
原作となった原田康子の「挽歌」は昭和30年代初めのベストセラー小説であるが、まだ無名だった彼女の同作をガリ版刷りの同人誌に発見したのは、監督の五所平之助であった。五所監督は八住利雄のシナリオでいち早く映画化、小説「挽歌」のベストセラーに大いに貢献したのである。感受性の鋭い少女と建築家の恋、その建築家の妻と医学生の恋、二組の不倫が北の大地で絡みあう。シナリオは少女を中心に不倫という恋愛形態がもたらす情の激しさ、酷薄さを、ロケ地である釧路という舞台をよく考慮し、北国の港町に染み渡らせるように描ききっている。
Kindle購入ページへ990円(税込)
2022-11-28
脚本の神波、松田コンビにとっては、「さそり」シリーズに続く篠原とおるの人気劇画(「リイドコミック」連載)のシナリオ化。この頃、神波と松田は「とにかく暴力映画をとことんやろう」という興奮状態が続いており、若い監督たちを刺激しまくっていた。「0課の女」は野田幸男監督の最高傑作と評されている。
シナリオでは、前半から米軍機やデモ隊のカットが挿入される。舞台となっている場所が基地の街だからであるが、それらは「シーン80」の壮絶な戦いに織り込まれるイメージシーンで昇華する。犯人と被害者、女刑事それぞれのイメージが「かあちゃーん!!」のセリフに重なったとき、すべては許されたのかもしれない。
「0課の女」は平成になってから何度かVシネマでもリメイクされている。
底本:「映画芸術」1975年4〜5月号(No.304)
990円(税込)
2022-11-28
東映が、「仁義なき戦い」以降の実録路線の打開策として、12年ぶりに製作したオールキャストの本格的時代劇。映画は大ヒット。ラストの度肝を抜くどんでん返しに賛否両論うずまき、話題になった。野上龍雄は次のように書いている。
「(略)時代劇をやらんかという話があった。何かピッタリ来る感じがあった。江戸時代なら難しいと返事をしたら、もう少し古くてもいいと言う。それで決まった。狙いは初めからすぐついた。稀有のことである。だからといってスムーズに出来たわけはないが、少なくとも迷いはなかった。ヤワな奴、シラけた奴、己れをロングに置いて滔々と鳥瞰図を語る奴は書くまいと思った。そうではなくて、自分の信じるままに生き、その故に闘い、そして死んでいく個体の群れを書こうと思った。
ひどく簡単なことだ。しかし、これは時代劇だから可能なのだ。各人が夫々の胸の中にある熱い思いが具現されるのは、多分、送り手も送られる側の誰もが経験したことのない時代の中でこそ……。」
第2回日本アカデミー賞優秀脚本賞、作品賞、主演男優賞、助演男優賞、技術賞を受賞。
990円(税込)
2022-11-28
1972年は「子連れ狼」など多くの劇画が映画化されている。「女囚701号 さそり」も東映の企画でその中の1本だが、劇画の設定をなぞることなく、独自のキャラクターを確立して注目された。その後「さそり」は、映画で7本、Vシネマで3本作られている。
底本:「'72 年鑑代表シナリオ集」(シナリオ作家協会編、ダヴィッド社刊)
990円(税込)
2022-06-29
滝田洋二郎&一色伸幸のコンビによる『僕らはみんな生きている』に続いて東南アジアを舞台にした作品。
会社勤めに嫌気がさした女性添乗員が、現地で出会った詐欺師に仲間入りをし、騒動を巻き起こす。異国の地で織りなすスピード感あり、ドタバタ感あり、大人の青春コメディである。
底本:月刊「シナリオ」1994年10月号
990円(税込)
2022-05-18
大正時代初期に、黙陽が雑誌『相対』にて発表した手記。黙陽は芥川龍之介のペンネームで、彼の性体験を記した作品ではないかと言われている。
1923年のドイツを舞台に、赤い帽子の女に惚れた日本人青年の姿を描く。シナリオの構成に重きを置かず、詩でも書くように、己の感覚的な表現を全面に出している。
内田栄一はシナリオ誌にて次のように語っている。「映画として完成したものは、最終稿である決定稿とは違っていた。お互いの言葉が通じない設定を重んじていたが、テンポの早い会話シーンが増えていた」
シナリオと映画のギャップへの怒りを述べている。
底本:月刊「シナリオ」1982年12月号
990円(税込)
2022-05-12
内田栄一がハイライトフィルムを設立して自主製作した8ミリ映画。内田は還暦を過ぎての監督デビューをはたした。映画は何でもありという精神で、これまでの内田ワールドがより先鋭的に大胆にシナリオ化されている。日本映画監督協会新人賞にノミネート。
底本:決定稿
990円(税込)
2022-05-12
内田栄一は若松孝二に「水のないプール」のシナリオを依頼されると、その場ですぐに引き受けた。現実に起きたクロロホルム事件に興味を持っていた内田は、第一稿を一週間ほどで上げる。若松はそれをすぐに印刷に回した。クランクインがずれて時間ができた。内田は監督と話しながらシナリオを練り直し、不要なところを削りに削ってシェイプアップした。第一稿では、プールの少女はシンナーを吸ったり売春をしたりするが、シャボン玉を吹くだけの少女になった。少女もシャボン玉も内田シナリオの定番。また、中村れい子の役名ねりかは、「妹」の秋吉久美子の役名ねり、「きらい・じゃないよ」シリーズにも登場するねりを連想させる。
底本:月刊「シナリオ」1982年3月号
990円(税込)
2022-05-12
1974年、藤田敏八監督から電話があり遊びにいくと「ちょっと出てよ」といわれ、「赤ちょうちん」に刑事役で出演する。その打ち上げで藤田監督は「妹」のシナリオを依頼。内田栄一のシナリオデビュー作となる。
妹という存在は内田のテーマの一つ。「身近にいる女なのに手をつけられない、タブーに包まれているところがいい」と定義する。遺作「きらい・じゃないよ2」でも妹と兄の不思議な関係が描かれている。
底本:月刊「シナリオ」1974年10月号
990円(税込)
2022-05-12
第三回城戸賞入賞作。城戸賞が始まって以来、三年目にしてようやくでた入賞作品であり(収録シナリオは応募作)、数カ月後に大森一樹自ら監督することになった。このとき、中岡京平の「夏の栄光」(「帰らざる日々」として映画化)も同時入賞している。同賞の選考を終えて、新藤兼人は次のように書いている。
「老夫婦の車の乗り逃げという着想が、このドラマを生き生きとさせている。この作者もひどく映画をおもしろがっている。それはたのしい。海賊放送と車の乗り逃げがほどよく対応して、ドラマはじぐざぐに進行してゆくのだが、あれよあれよといううちに、みるものをおしながしてゆく話術も巧みである。次々と重ねられるとぼけたシチュエーションはたんなる喜劇ではない。ここでもイメージはものすごくはんらんする。
若さのよさというものは、怖れをしらぬ無鉄砲さである。不用心で、八方破れで、大胆不敵、ということが若さの特権である。不用心で、めくらめっぽう、あふれる好奇心、というものが、あるときひとつの創作を生むのである。ベテランは、用心深く、なにごとも常識的で、事前に危険をふせぐ能力をもっているからベテランと呼ばれるのであるが、これは失敗しない代り、未知へ足をふみこむ勇気はもたない。この作者はこのことを考えさせる。」
990円(税込)
2022-05-12
6人の医学生たちの青春グラフィティ。シナリオでは、それぞれの事情が笑いを混じえて軽いジャブのようにくり出されていく。しかし、そのジャブはいつしか本質を現し、気がつくと重いパンチに変わっている。まともに食らうと立ち上がれない。「青春」という名の得体の知れない時間は、容赦なく医学生たちに「人生」をつきつける。ラストシーンの「◯スチール写真Ⅲ」。その衝撃を読者はどのように受け止めるだろうか。
底本:「アートシアター 142号」完成採録台本
990円(税込)
2022-05-12
京都府立医大3年生の大森一樹が、初めて16ミリで作った映画。瑞々しい輝きを持った青春劇。自主映画ながらキネマ旬報ベスト10の21位に入る。
以下はシナリオを採録するにあたっての大森一樹のコメント。
「最初あったシナリオは、撮影、編集、音入れと手順を経るに従って、形をかなり変えていったようです。ここに載せたシナリオは、そうした挙句出来上がった映画から、監督のぼくが採録したものです。
採録にあたっては、ただのセリフの聞き写しではつまらないので、カメラの動きや、現場の事情等、採録することで、自分の映画をふりかえってみれればと、欲ばってみました。欲ばりすぎて読みづらくなったかもしれませんが、お許しを」
底本:大森一樹の採録シナリオ
990円(税込)
2022-05-12
「きらい・じゃないよ」に続く内田栄一の脚本・監督作品。前作は8ミリで撮影し度肝を抜いたが、今回は35ミリ。劇場用第一回監督作品であり、遺作となった。
シナリオの舞台となっているのは愛媛県の五十崎。内田栄一の父親の故郷である。シナリオハンティングを何度も行って、その土地のにおいがしみついてから、シナリオを書き始めたという。土地に付けられた名前は「百年まち」。そこの住人はみんな死んだ人たちだった……。
底本:撮影台本
990円(税込)
2022-05-09
原作は木村肇と会社が主な舞台のサラリーマンもの。シナリオでは木村肇の家庭がメインとなり、新たに太郎という男の子を書き加えた。映画が公開された当時、一色伸幸は「シナリオ」誌で次のように語っている。
「シナリオは構成なんですよね。でも、構成の段階では笑いのことまで考えないんです。だからハコを読んだフジテレビのプロデューサーが暗いんじゃないですかって。ハコをシナリオにしていく段階で、ほとんどアドリブでギャグを書いていくわけですから」
底本:月刊「シナリオ」1988年5月号
990円(税込)
2022-04-27
一色にとっては「木村家の人々」以来、11年ぶりのホーム・コメディ。その間に父親像はどのように変化したのか……。シナリオの末尾に「お受験」のプロット「走れ幼稚園」を掲載(横組で書かれたプロットですが、編集の都合で縦組にしています)。
底本:シナリオ100「04 DADDY'S LAST RUN/お受験」(演劇ブック社、00年刊)
990円(税込)
2022-04-27
一色伸行が23歳のときに書いたシナリオ。農村の自然賛美、嫁不足などを徹底的に茶化した、日本では珍しい過激な喜劇である。ラストは農村に嫁が来る話にしてほしいというスポンサーの要望を断り続け、映画化されるまでに4年かかった。ここに電子化したシナリオは決定稿の一つ前の第7稿。決定稿では金子監督の意見も取り入れ、一部人物設定などが変更されている。
Kindle購入ページへ990円(税込)
2022-04-27
これまで病院を舞台にした映画というと、「白い巨塔」のような医者の権力抗争、アイドルが活躍する看護婦もの、お涙ちょうだいの難病ものとだいたい相場が決まっていた。一色は「普通に入院して、普通に退院していく、ありきたりの入院」を描きたいと思った。なぜかというと、日本人の80%は病院で死ぬからである。つまり、入院とは特別なことではなく、病院はハワイよりも行く確率の高い場所なのだ。そんな「隣の異次元」ともいえる病院が、一色の筆でブラックな笑いに包まれる。
底本:「'90 年鑑代表シナリオ集」(シナリオ作家協会編、映人社刊)
990円(税込)
2022-04-27
87年、一色と友人との雑談で企画が生まれた。監督に話をもちかけたのは「病院へ行こう」の撮影中、89年だった。その翌年にはゴーサインが出たが、シナリオが出来上がると面白いけどちょっとリアリティが……という意見も聞かれた。その時、ちょうど湾岸戦争が始まり、タイではクーデターが起き、現実の世界情勢がシナリオにリアリティを与えたが、タイでのロケを予定していた撮影は延期を余儀なくされる。ところが、戦争もクーデターも短期間で収束したため撮影開始、企画から6年目にして映画は完成したのだった。
最初のタイトルは「サラリーマン、ジャングルへ行く」。登場人物のサラリーマンたちを通して「日本人の醜さ、日本人としてのささやかな誇りがうまく伝わればいいな」と、一色は語っている。
底本:「'93 年鑑代表シナリオ集」(シナリオ作家協会編、映人社刊)
990円(税込)
2022-04-05
地名を3つ並べただけの素朴なタイトルが印象的。水上勉の同名小説を八木保太郎が脚色した。衝撃的なラストシーンは八木の創作で、水上勉が芝居にするとき逆に八木のラストを使わせてもらったという。主演は先頃亡くなった三國連太郎と小沢昭一。64年度の東映一本立て興行文芸大作。キネマ旬報6位(同じく三國連太郎主演「飢餓海峡」は5位)。毎日映画コンクール脚本賞受賞。
Kindle購入ページへ990円(税込)
2022-04-05
「天草四郎時貞」以来、3年ぶりの大島作品。その間、創造社からはシナリオを共作してきた石堂淑朗が抜け、大島は原作である山田風太郎の「棺の中の悦楽」を自ら脚色した。「映画芸術」No.214で大島は次のように書いている。「私は今でも、単純に、みんなが自由にいい映画を作れたらいいなあ、と思っている甘ちゃんなのである。そしてその方法を発見できずにいる能なしなのである。そういう私は、結局そういう私にふさわしい作品をつくる以外にはないのだろう。/それで、今回の私の作品も、結局、今までの私の作品がそうであったように男の純情の物語なのである。」
底本:「映画芸術」No.214
550円(税込)
2022-03-14
伊丹万作の脚本家デビュー作であり、本作から伊丹万作という名(本名、池内義豊)を使用している。伊丹は主演の片岡千恵蔵が経営する製作会社「片岡千恵蔵プロダクション」に入社し、1週間で本作の脚本を書き上げる。本作を期に片岡プロは数多くの時代劇を製作する。
また伊丹万作、稲垣浩による脚本監督の黄金コンビは、伊丹の没後に映画化された作品『手をつなぐ子等』にまで続き、多くの映画ファンを魅了した。
本作のフィルムは残っておらず鑑賞不可能であるが、リメイクされた『戦国奇譚 気まぐれ冠者』は現存しており、数少ない伊丹万作作品の貴重な一本になっている。
1928年公開/製作:片岡千恵蔵プロダクション/監督:稲垣浩/主演:片岡千恵蔵、武井龍三、林誠之助、市川小文治
990円(税込)
2022-03-09
世界の黒澤が絶賛したシナリオ
戦国戦乱期、武将である土岐家長男の太郎が、御用金を野武士である甲斐六郎らに奪われる。その長男を良く思っていない弟の次郎は兄が御用金を持ち逃げしたと報告したことにより、太郎は行き場を失う。奇しくも六郎と行動を共にすることになった太郎は野武士の首領になり…。
原作三好十郎。脚色は梶原金八。梶原金八とは山中貞雄をはじめとする京都の若い脚本家8人で結成された「鳴滝組」の共同ペンネームである。
鳴滝組には本作の監督である滝沢英輔も含まれていた。滝沢は京都を離れ、東宝の前身の1社であるP.C.L映画製作所に入社、本作の脚本を鳴滝組(梶原金八)に依頼した。しかし、実際に執筆したのは山中貞雄ひとりで、演出への指示が数多く記入されており、山中の演出に対する強いこだわりが見られる貴重な脚本となった。映画完成の翌年、1938年に山中貞雄は出征し、中国戦線で戦死する。彼の死によって鳴滝組は消滅した。
後に黒澤明が潤色し、1959年リメイクされる。実は1937年製作の際、黒澤明は助監督を務めている。黒澤は同年代の山中貞雄に影響を受けており、その才能に一目置いていた。
1937年公開/製作:P.C.L映画製作所+前進座/監督:滝沢英輔/主演:河原崎長十郎、坂東調右衛門、河原崎国太郎、千葉早智子、橘小三郎、中村翫右衛門
990円(税込)
2022-02-28
里見弴原作、小津安二郎と野田高梧脚本の2作目。
共通の友人だった三輪の七回忌で、間宮(佐分利信)、田口(中村伸郎)、平山(北竜二)の3人は、未亡人である秋子(原節子)とその娘アヤ子(司葉子)と再会する。婚期を迎えたアヤ子に縁談を持ちかけようとする3人だったが、アヤ子は母親を一人にすることに躊躇する。母親の再婚話も浮上する中、母娘で訪れた旅行先にてそれぞれ自分の将来についての決意を固める。
多くの小津作品で娘を演じていた原節子が初めて母親役を演じた。『晩春』等、父と娘の設定が多い中で、本作は娘を思う母親が描かれている。
料亭での取り巻きの紳士たちの会話はユーモラスで、それぞれの家族について語り合う。小津のカラー作品では度々同じような場面が出てきており、家族を映す上で一つのセオリーになっていった。
里見弴と小津安二郎の関係は非常に深く、小津は里見から脚本の意見を度々聞いていた。ちなみに里見の四男である山内静夫は『早春』以降プロデューサーを務めており、小津監督の遺作『秋刀魚の味』まで担当している。
1960年公開/製作:松竹大船/監督:小津安二郎/出演:原節子、司葉子、佐分利信、岡田茉莉子、中村伸郎/上映時間:128分
990円(税込)
2022-02-21
もとのタイトルは「鳩を売る少年」。1958年執筆。同年12月、松竹大船撮影所監督助手会『シナリオ集』第9号に掲載された。『シナリオ集』とは、大島渚、田村孟、吉田喜重の3人が1956年に発刊した監督助手会の機関誌である。1959年、松竹から監督に起用すると言われた大島は、ためらうことなく「鳩を売る少年」を提出した。好評のうちに企画は通ったが、試写を見た撮影所長は「大島君。これでは金持と貧乏人は永遠に和解できないように見える」と不評だった。「愛と希望の街」は封切館ではなく二番館以下での公開となった。
しかし、社会に対する明確なメッセージをもったこの作品は、佐藤忠男、花田清輝、斎藤龍鳳など多くの評論家が取り上げ、賛辞を惜しまなかった。
底本:「日本の夜と霧」(現代思潮社、1972年第8刷発行)
990円(税込)
2022-02-21
大島渚が書いたシナリオ「宵闇せまれば」は、そもそもテレビ東京で自ら演出する予定のテレビドラマだった。しかし、内容が不穏であるとの理由で印刷された台本は没となり、大島は急遽「仰げば尊し」というシナリオを書いて演出した(大島唯一のスタジオドラマである)。破棄された「宵闇せまれば」の台本を持っていたのが、TBSの演出家・実相寺昭雄だった。実相寺は「愛と希望の街」を見て感動し、テレビドラマ「おかあさん」第一話、「あなたを呼ぶ声」のシナリオを大島に書いてもらった経緯がある。実相寺は「宵闇せまれば」を映画のシナリオとして印刷し、大島に許諾を求めた。大島は「私としては旧作でもあり、テレビ用のものでもあり、いささか面映いのだが、事ここに至っては承諾する外なかった」と書いている。中編「宵闇せまれば」は実相寺昭雄の事実上、映画デビュー作となったのである。
Kindle購入ページへ990円(税込)
2022-02-21
もとになったのは、大島が1958年に執筆したオリジナルシナリオ「愛と人間のめざめ」。松竹大船撮影所監督助手会『シナリオ集』第8号に掲載された。伊東の旅館にこもってシナリオを直しているとき、現代の本質をつかむには「残酷」をテーマにするのがいいと気づき、タイトルを「青春残酷物語」と決めてからは、作業は一気に進んだ。この作品は『週刊読売』の大沼正、長部日出雄に日本のヌーベルバーグと命名され、60年安保闘争の真っ只中、封切られた。
底本:「日本の夜と霧」(現代思潮社、1972年第8刷発行
990円(税込)
2022-02-21
大島渚のテレビドキュメンタリー。日本テレビのプロデューサー牛山純一が発足させた「ノンフィクション劇場」で放映された。牛山から作品を依頼されていた大島は、日本テレビ局員がもってきた韓国籍のため補償を受けられない傷痍軍人の話にとびついた。早坂暁の案で、補償の請願をする彼らを4台のカメラで追い、さらに大島渚に涙を流しながら訴える片腕両目失明の傷痍軍人に向けてカメラとテープを回し続けた。シナリオには大島渚のコメントがナレーションとして下段に書かれており、それを小松方正が叫ぶように読んだ。ナレーションが映像とあいまって彼らの心の深い傷をさらす。放映後、日本のお茶の間に衝撃が走った。白衣を身にまとった傷痍軍人のほとんどが韓国籍の人たちであるとは、夢にも思っていなかったからだ。篠田正浩監督は「絞死刑」と「忘れられた皇軍」が大島渚たるイデオローグを確立した作品ではないか、と述べている。第一回ギャラクシー賞受賞。
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2022-02-21
フランス人のアナトール・ドーマンはヨーロッパで大島渚を最初に認めたプロデューサー。アラン・レネやゴダールの映画も製作している藝術派である。1972年、彼はパリの試写室の控室で大島に言った。「合作で一緒に映画をつくろう。それはポルノだ。金はこっちで出す」。それから3年後、大島は「愛のコリーダ」を日仏合作で撮る決心をする。ネガをフランスから輸入して撮影し、未現像のままフランスへ送り返す。そしてパリで編集とダビングをするという方法を考えついたからである。
大島はシナリオを書き始めた。その最中に若松孝二に日本側のプロデューサーになってもらおうと心に決める。シナリオが書きあがり、若松に会った。若松は「面白い。やりましょう」と笑って言った。即答だった。
かくして映画は完成するが、逆輸入したフィルムは税関でストップ。大幅な修正を余儀なくされた。また、シナリオと宣伝用スチールを掲載した書籍がわいせつ物頒布罪で起訴されたが、一審二審ともに無罪となった。
「愛のコリーダ」は、公開されてから35年たった現在も日本の劇場では完全版を見ることはできない。
イギリス映画批評家賞外国語映画賞、シカゴ映画祭審査員特別賞受賞。
底本:「愛のコリーダ」(三一書房、1979年第10刷発行)
990円(税込)
2022-02-14
里見弴原作、小津安二郎と野田高梧脚本の1作目。小津監督初のカラー作品である。
会社常務の平山渉(佐分利信)は結婚適齢期を迎えた娘・節子(有馬稲子)がおり、勝手に縁談を進めていた。
しかし節子には親に黙って交際していた谷口(佐田啓二)という相手がおり、娘が相談もなしに結婚を決めたことに激怒する。友人の娘の縁談には別人のように寛容なのだが、身内のことになると頑固を貫く。その姿は子煩悩がゆえの父親なりの心情であった。
小津は学生時代より里見弴の小説を愛読していた。家が近所で里見との親交も深まり、脚本の意見を求めることも多くなった。本作は小津の依頼を受け、映画化のために執筆した作品であり、『秋日和』に関してもそれにあたる。
第32回キネマ旬報ベストテン第3位
1958年公開/製作:松竹大船/監督:小津安二郎/出演:佐分利信、有馬稲子、田中絹代、山本富士子、佐田啓二、笠智衆/上映時間:118分
990円(税込)
2022-01-19
幕末時代劇の中で尊王攘夷派VS佐幕派の構図は数多く扱われており、本作もその中の物語である。
志戸原兼作(近藤十四郎)は薩摩藩を脱藩し、土佐勤王党の武市瑞山(佐藤慶)と手を組み、人斬りとして名を馳せる。
志戸原はある暗殺現場で親を目の前で殺された娘の絶望的表情に衝撃を覚える。その数日後、刺客により傷を負った志戸原はお鶴という町娘に手当を受けた。
実はお鶴は先の暗殺現場の娘の姉であり、暗殺を目撃した妹は精神を病んでしまっていた。
罪の意識が芽生えた志戸原は無慈悲な殺生に疑問を抱き始める。しかし武市は全く手段を選ばず冷徹無比な行動を部下に指示し続ける。
さらに元薩摩藩である志戸原は土佐で固めたい武市にとって邪魔者になり、疎外されていく。志戸原は武市と真っ向から対立。武市はある決断を下す……。
複雑な三藩(薩摩・土佐・長州)の対立関係、幕末の情勢を交えて描写しており、笠原和夫の造詣の深さが伺える。
本作はシナリオ文庫でも取り扱っている、橋本忍の『人斬り』に通じている部分がある。『人斬り』では武市が岡田以蔵を暗殺者に仕立て上げ、操る。京都町奉行四名暗殺事件を扱っているのも共通している。
笠原和夫オリジナルシナリオである本作に橋本忍は少なくとも触発されているであろう。照らし合せて読みたい作品である
990円(税込)
2021-12-03
司馬遼太郎の短編『人斬り以蔵』を参考文献にし、橋本忍が脚本を担当した。
フジテレビジョンが映画製作第1弾『御用金』に続く第2弾として勝プロダクションと組み本作を生んだ。監督は『御用金』の五社英雄。
「人斬り以蔵」の異名を持つ土佐最強の剣士、岡田以蔵の半生を描く。冷徹無惨なイメージの岡田以蔵を勝新太郎が演じることにより、お茶目で人間味のある人物になっている。
より真剣に近い臨場感を求める五社監督が手掛ける殺陣は、俳優の迫真の演技を引き出し、本作の見どころの一つである。
薩摩の田中新兵衛役に三島由紀夫が起用され、切腹シーンは話題を呼んだ。約1年後三島事件で切腹死したという運命的作品でもある。
1969/フジテレビジョン+勝プロダクション/監督:五社英雄/主演:勝新太郎、仲代達矢、三島由紀夫、石原裕次郎、倍賞美津子/上映時間:140分
990円(税込)
2021-12-03
終戦後の昭和二十二年夏、群馬県高崎に生まれたオーケストラ群馬交響楽団の実話をもとに生まれた。
今井正と水木洋子の往年の名コンビによる作品。映画化するにはストーリーが乏しく、脚本に1年、撮影に6カ月も要したが、群馬県庁や高崎市の後援による尽力もあって完成する。
田舎のアマチュア楽団が葛藤、困難を経験しながら成長していくというシンプルなテーマではあるが、日本の音楽史にとって非常に重要な作品。
ラストシーンの合同演奏会で演奏されるベートーベン第九交響曲は圧巻。作曲家の山田耕筰が自ら指揮したことで話題を呼んだ。
第29回キネマ旬報ベスト・テン第5位。
1955/独立映画・松竹/監督:今井正/主演:岸景子、小林桂樹、岡田英次、加東大介、山田工作/上映時間:177分
990円(税込)
2021-12-03
企画であるマキノ光雄が、内田叶夢監督の『土』の現代版を撮りたいと企画し、『土』の脚本である八木保太郎が脚本を担当した。
今井正監督にとっては初のカラー作品になる。
1950年代後半の茨城県霞ヶ浦に面した農漁村が舞台であり、閉鎖的で貧しい社会の中での人々の暮らしを描く。
男女の恋愛、友情、家族愛が綿密に描かれており、生活が貧しく重労働を強いられる中での生きる姿が美しい作品である。
現代では見られなくなった戦後日本の田園風景、農機具、帆曳き舟を詩情豊かに織り交ぜている。
第31回キネマ旬報ベスト・テン 第1位、監督賞
第12回毎日映画コンクール日本映画大賞、監督賞、録音賞
第8回ブルーリボン賞 作品賞、監督賞、企画賞、主演女優賞受賞
1957年/東映/監督:今井正/主演・江原真二郎、中村雅子、木村功、望月優子、中原さとみ
上映時間:118分
990円(税込)
2021-12-03
沢島忠監督による全三話あるオムニバス映画。本作は第一話であり、笠原和夫が脚本をしている。第二話(冬の章)を中島貞夫、第三話(春の章)を野上龍雄が担当した。
秋・冬・春を舞台にしており、それぞれの季節に合わせた三者三様のやくざの生き様を見ることができる。第一話(秋の章)では仲代達矢演じる千太郎が主人公である。兇状持ちである千太郎と女郎役である桜町弘子の人情話が主軸であり、股旅物でよくある古典的な物語となっている。
仲代達矢にとって股旅やくざを演じるのは初めてであり、惚れた女郎の為に身命を賭する姿をシリアスかつ重厚に表現している。
1965/東映/監督:沢島忠/主演:仲代達矢、桜町弘子、内田朝雄、尾形伸之介、田中邦衛
990円(税込)
2021-12-03
『仁義なき戦いシリーズ』にて大ヒットを記録した深作欣二+笠原和夫コンビの最終章。
本作はヤクザと警察の癒着を描いており、それに加えて在日問題にもスポットを当てている。
渡哲也演じる一匹狼の刑事とヤクザが盃を交わし、在日であるという共通点を持つヤクザの妻と恋に落ちる。徐々に混沌が増していき、ラストの壮絶なシーンへと繫がる。
笠原和夫は本作を機に東映を退社。フリーの脚本家となり、以後ヤクザ映画とも手を引くこととなった。
第50回キネマ旬報ベスト・テン第8位。
1976/東映/監督:深作欣二/主演:渡哲也、梶芽衣子、矢吹二朗、大島渚、梅宮辰夫/上映時間:96分
990円(税込)
2020-05-29
荒井晴彦のオリジナルシナリオ。道交法改正で暴走族を解散し走ることをやめたメンバーたちに、彼らに憧れていた若者が黒いスバル360を駆って次々に襲いかかる。まるで学生運動から足を洗って大企業に就職した青年たちを総括するように。
ミク「理由を教えて、あいつらに恨みでもあるの」/マイン「解散さしちゃったよ。アンラッキー・ヤングメン……」/ミー「どうして、誕生日で人生観がコロッと変っちまうんだ。ハタチになると大人だなんて……」/マイ「散々、好き勝手なことやってきて、自分の都合だけで、ハイ終りなんて……」/アイ「勝手に幕引いちまって、澄ましかえってやがる」
荒井・根岸コンビによる無冠の名作にっかつロマンポルノ。
990円(税込)
2020-05-29
戦後のデフレで荒廃した日本。明日の生活にも事欠く貧困から抜け出そうと、保険の勧誘に応募した男女5人であるが、保険会社はハナから使い捨ての算段で無理なノルマを押しつける。どうにもならなくなった彼らはついに犯罪に手を染める。底本は映画タイムス社刊行の「シナリオ文庫No.35 狼」。映画が公開された年に出版された。文庫の最期に「ラスト・チャンスの人たち」と題された新藤兼人の短文が記されている。「五人の善良な主人公たちは、彼らに与えられた〝ラスト・チャンス〟から、犯罪者という名の下に転落した。それは、自殺者が断崖に立ったときのように、めまいにも似た自己喪失のうちに犯された犯罪ではあったが、やはり彼らは責任をとらねばならなかった。五人の主人公たちは弱かったのだ。しかし、五人の主人公たちを嗤うことは出来ない。それは、彼らの弱さは、私たちがもっている弱さなのだからである。貧しくても弱い主人公たちの運命を、この映画は苛酷に追いすぎるかもしれない。しかし、それは人間の弱さを見つめることによって、生きるための強さを見極めたいからである。」
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2020-04-28
1961年度のキネマ旬報脚本賞受賞。テーマになっている李承晩ラインは、1952年、韓国が海洋資源の獲得のため一方的に引いた軍事境界線、排他的経済水域である。数多くの日本漁船が拿捕された。水木洋子はそのニュースに接し、漁民の「いくら危険だと分かっていても、魚をとらなければ生きていけない」という声を聞きき、映画化を決心。長崎でのシナリオハンティングなど1年半にわたる調査を経て、オリジナルシナリオを書いた。主人公の漁師は在日韓国人の青年。木村「一生、自分の生まれバかくして生きようと思った。日本人を憎みながら、日本人になりきろうとする…自分の気持が…どうにもやりきれん時がある」。李承晩ラインとともに、民族問題も取り上げることによって国際問題の本質に迫ろうとした意欲作である。
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2020-04-28
1960年にオンエアされた水木の書き下ろしテレビドラマ「もず」(NTV)を映画化した作品。母と娘の愛憎を鮮やかに描く。1961年、キネマ旬報脚本賞受賞。当時、水木洋子はこの作品について次のように記している。「母子の愛情といえば、美しく清らかなものという表面的な観察で描かれてきたものだが、母も人間であり一人の女であり、子も一人の人間であることに違いはない。その愛の交流には女という動物的感情、そして生きものとしてのエゴイズム、しかもなお親子と断ちがたい絆のつながり。その愛憎のからみ合う姿は悲しくも美しい人間ドラマであると思う。私は、それを感傷の曇った眼で甘やかすことなく、真実を厳しく見つめることに、この『もず』の目的があった」。
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2020-04-28
京マチ子がテレビドラマに初出演するにあたり水木洋子が書き下ろした作品「あぶら照り」を、2時間の映画にリメイクした。1964年、キネマ旬報脚本賞受賞。まだ敗戦の名残が色濃い焼け跡。そこに居並ぶ飲み屋街でたくましく生きる女性(京マチ子)とその家族を描く。再開発で取り壊される街は下北沢である。東京オリンピック(1964)というワードはシナリオに出てこないので、再開発とは無関係なのかもしれない。どぶ川、ベニヤ板のしきり、古びた扇風機、サイダー、団地の狭い部屋……雑然とした戦後の街が新しく生まれ変わろうとする様と男に騙されながらも地を這うように大家族を養うシングルマザーの生き様が、夏の降り注ぐ日差しの中で見事にシンクロしている。名作である。
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2020-04-28
水木洋子脚本、成瀬巳喜男監督、二人の代表作に挙げる人も多い傑作である。1955年、キネマ旬報ベストテン第1位。原作は林芙美子。水木と林はともに作家として南方に従軍した仲である。第二次大戦中、南方の仏印で愛し合った男女が復員し、東京で再会する。ゆき子「……私たちって、行く処がないみたいね……」富岡「……そうだな……どっか、遠くへ行こうか……」。甘い言葉をささやく男であるが、彼には妻があるうえ、生来の浮気性だった。二人の間にはいさかいが絶えない。何度も別れを口にしながらも、ずるずると関係を続けてしまう二人。諦めきれず離れられない女、いつも逃げ腰の男。愛憎劇はどろどろの泥濘にはまりこんでゆく。
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2020-04-28
原作は室生犀星。水木洋子のシナリオで二度映画化されている。1953年の大映作品は京マチ子主演、成瀬巳喜男監督。シナリオ作家協会シナリオ賞受賞。リメイクは1976年の東宝映画作品。秋吉久美子主演、今井正監督。電子シナリオは76年版であるが、基本は旧作とほとんど変わっていない。妊娠して実家に帰ってきた妹に、つらくあたる兄。家族は二人の激しい罵り合い、取っ組み合いにはらはらする。しかし、兄は誰よりも妹を気にかけ愛していた。大切な人だからこそ、気持ちとは裏腹にきつい態度をとってまう、その典型を見事に映画シナリオに落とし込んでいる。最後の兄のセリフが効いている。泣かされる
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2020-03-06
伊丹万作のシナリオ・デビュー作。1927年に書き上げ、4年後の31年に自ら監督した。サイレント映画である。伊丹のシナリオはもちろんサイレントのために書かれたもので、カットが多く台詞がスポークン・タイトルとして挿入されている。
北川冬彦はこの作品について次のように記している。
<伊丹万作はこの「花火」では、主人公の性格を臆病侍と設定して、その性格と生活環境がつくり出す相克図を描くことで、自我の追求をめざしている。嵐の夜には、便所へ行くのに妹に連れて行ってもらうという臆病侍が、父の仇討をせねばならないことになり、いろいろ臆病退治の修業をして、仇にめぐりあい勝つには勝ったが、どうも相手はわざと隙を見せて自分に殺されたのではあるまいか、どうもそうらしいと反省するのである。こういう思考をテーマとする日本映画には、私はそれまでお目にかかったことがない>
550円(税込)
2020-03-06
伊丹万作が脚本・監督したサイレントの時代劇。原作は村松梢風の小説「人間飢饉」。幕末、北辰一刀流で名を馳せた千葉周作門下の俊英・平手造酒が主人公である。北川冬彦はこのシナリオの解説で以下のように書いている。
「この平手造酒は、新しい時代に挺身する人々のために、自分をそれまで食わせてくれていた暴力団を裏切って力を借す。しかし、これからもいっしょに行動してくれといわれると、自分にはその自信がないといって別れるのである。(このラストは本巻収録のシナリオとは違っている。伊丹万作は撮影にあたって、だいたいシナリオどおりに撮る人であったが、しかし、サイレントのときには、ところどころ変えていることもあるようである)これは、時勢に捲き込まれることを欲しない自我を伊丹は示したと見ていい。」
550円(税込)
2020-03-06
1935年、伊丹万作は片岡千恵蔵プロダクションから新興キネマに移り、トーキー第一作となる「忠次売出す」を脚本・監督した。国定忠治は時代劇でよくとりあげられる人物だが、忠次の青年期を描いたのは本作が初めて。庶民として生活していた忠次が、家業を捨て男を上げていく様子をユーモアを交えながら丹念に描いている。
ちなみに忠次の敵役・御朱印を演じた志村喬は、この作品で初めてセリフのある役を得て、役者として売出す足がかりとなった。
990円(税込)
2020-02-06
高度成長期まっただなかの新宿を主な舞台に、故郷の東北から逃れるように上京した兄と妹の姿を描く。テンポのよいト書きがまるで運命の調べでもあるかのように、二人を追い詰めていくのである。過去が兄妹を固く結びつけているのだが、故郷を棄てた都会では反撥が大きくなる。妹と彼女が愛した男、そして兄との三角関係は耳をふさぎたくなるような不協和音を奏で、故郷喪失者たちを思わぬ事件に巻き込んでいく。
底本:「'75年鑑代表シナリオ集」(シナリオ作家協会編、ダヴィッド社刊)
1975年/松竹/監督:野村芳太郎/原作:結城昌治/主演:高橋英樹、秋吉久美子、池波志乃
990円(税込)
2020-02-06
「愛妻物語」(1951)以来、新藤兼人と近代映画協会で40年以上仕事を共にしてきた乙羽信子の遺作。乙羽は最後の力を振り絞って熱演。映画が完成した2カ月後に亡くなった。享年70。翌年、映画の配給が決まり乙羽信子を偲ぶ特別試写会が行われる。有楽町スバル座で単館ロードショー。中高年の客がつめかけ、4カ月にわたるロングランとなる。当初、出演者が老人ばかりなので客が入るだろうかという声もあったが、逆に老人の生き方を鋭い視点で描いた同作は評価が高く、数々の賞を受賞する栄誉に浴した。
モスクワ国際映画祭審査員賞。山路ふみ子映画賞、同文化賞(杉村春子)、同文化財団特別賞(朝霧鏡子)。日本ペンクラブ賞。報知映画賞最優秀作品賞。日刊スポーツ映画大賞、同監督賞、同主演女優賞(杉村春子)、同特別賞(乙羽信子)。日本映画批評家大賞。日本映画テレビプロデューサー協会の特別功労賞、エランドール賞(新藤兼人、乙羽信子)。キネマ旬報日本映画作品賞、同監督賞、同脚本賞、同主演女優賞(杉村春子)、同助演女優賞(乙羽信子)。文化庁優秀映画作品賞。日本アカデミー賞最優秀作品賞、同最優秀監督賞、同最優秀脚本賞、最優秀助演女優賞(乙羽信子)、同特別賞(企画)、同優秀編集賞(渡辺行夫)。映画鑑賞団体全国連絡会議の日本映画賞、監督賞、主演女優賞(杉村春子)。川喜多記念映画文化財団賞。
1995年/近代映画協会/監督:新藤兼人/主演:杉村春子、乙羽信子、朝霧鏡子、観世栄夫
990円(税込)
2020-02-04
原作は芥川龍之介の短編。水木洋子は主演の京マチ子の芸域が広がるのイメージして脚色したという。まだホラーという言葉がない時代、オカルト映画と言われた。ポスターの惹句は「邪霊が美女の精気を吸う! 妖気が迫るオカルト!」。公開は1976年。京マチ子は悪霊に取り憑かれた薄幸な女性を十代から老婆まで演じた。
1976年/永田プロダクション、大映/監督:今井正/原作:芥川龍之介/主演:京マチ子、稲野和子、江原真二郎、児玉清
990円(税込)
2020-02-04
第二次世界大戦末期、米軍の銃弾が降り注ぐ沖縄で、女子学生たちが看護婦として動員され最前線に立った。彼女たち「ひめゆり学徒」が悲愴な最期へと追い詰められていく様を辛辣に描いた戦争映画の傑作。1953年公開。当時の沖縄は米軍の占領下にあったため、少女部隊の資料は皆無に等しかった。水木洋子は沖縄戦の傷病兵を訪ね、病院壕の状況、進撃コース、ひめゆり部隊の足取りを探りあてていく。そのうえで、彼女は「群像の一人々々の行動を縦横の線の図式表につくり、何月何日何時、誰は何処で何をしたかを区分して群像の処理にあたった。そして性格づけもタイプも生々と目に浮かぶようになって、やっと執筆にかかった」と記している。映画は大ヒットとなり苦境に陥っていた東映を救ったとされている。水木洋子は第一回菊池寛賞を受賞した。
1953年/東映/監督:今井正/主演:津島恵子、岡田英次、香川京子、小田切みき
990円(税込)
2020-02-04
戦後の高度成長はそれまでの三世代で暮らすのが一般的であった家族制度を崩壊させた。その中で老人の身の処し方に焦点を当てた、当時としては先端的な作品であり、ストーリーではなく一日半という限られた時間を短編的に構成した冒険的な作品でもある。興行的には成り立ちにくいテーマゆえ、監督(今井正)と製作(市川喜一)、脚本の水木洋子でプロダクションを設立して製作、松竹によって配給された。1962年公開。水木が「養老院で働いている友人を尋ねた時、おびただしい数の老人が食堂に集まってくる姿を見て、画面いっぱい老人ばかりの群像を描いてみたい」と思ったのが発端。北林谷栄、ミヤコ蝶々をはじめとするそうそうたる老人役の名優たちが出演している。
1962年/M・I・Iプロダクション/監督:今井正/主演:ミヤコ蝶々、北林谷栄、飯田蝶子
990円(税込)
2020-02-03
キリシタン弾圧をテーマにした小説「沈黙」は、世界的にも高く評価された戦後を代表する日本文学作品のひとつ。第2回谷崎潤一郎賞受賞。ここに収録したシナリオは、原作者の遠藤周作が自ら脚色したオリジナル。
1971年に映画化された「沈黙 SILENCE」のシナリオは、監督の篠田正浩と遠藤周作の共作で、このシナリオとは別物である。
1966年/歴史小説
990円(税込)
2020-02-03
「少年」は、田村孟が実際の事件に想を得て執筆したオリジナルシナリオをもとに、創造社とATGが共同製作した作品。
新藤兼人は「田村孟は、ほんとうに優しい心をもった人だ。そうでなければ『少年』のようなシナリオは書けない。一人の少年の心をじっとあたたかい目でみつめているシナリオだった」と記す。
鈴木尚之は「恐らくは、射精もマスターベーションも経験したことのない十三歳の男の子。彼がまだ見ぬ女というものへ、一歩一歩近づいていく過程。その無垢な性欲と邪悪な好奇心を、観念ではなく具象の詩として表出したところに、このシナリオ、そして映画『少年』の勝利が輝いている。実際の事件に取材し、犯罪という名の共同体を描いたという点では、『白昼の通り魔』『青春の殺人者』とある種同工異曲でありながら、『少年』が他の二作と一線を画し、さらなる高みに達している理由は、まさしくそこにあるように思えるのである」と書き、「戦後日本映画の傑作である」と絶賛している。
キネマ旬報脚本賞、毎日映画コンクール脚本賞、シナリオ作家協会・第21回シナリオ賞、第19回シナリオ特別賞を受賞。
1969年/ATG/監督:大島渚/主演:渡辺文雄、小山明子、阿部哲夫、木下剛志
990円(税込)
2020-02-03
原爆の被爆者問題をテーマにした水木洋子のオリジナルシナリオ。1957年公開。この年に「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」が制定された。主人公の青年(江原真二郎)と少女(中原ひとみ)は戦災孤児。スリで生活しているがお互い惹かれ合い、真面目に生きようと決心する。しかし、混沌とした焼け野原で彼らが生きていくのはただでも過酷なのに、少女の体にさまざまな変化が起こり、二人の純愛は目に見えない戦争に翻弄され続けるのだった。ベルリン国際映画祭銀熊賞、キネマ旬報ベストテン第2位、毎日映画コンクール監督賞・録音賞、日本シナリオ作家協会シナリオ賞を受賞。
1957年/東映/監督:今井正/主演:江原真二郎、中原ひとみ
990円(税込)
2020-02-03
文芸プロダクションにんじんくらぶが資産を投じて製作。1965年、東宝が配給した。小泉八雲の原作を水木洋子が脚色。「黒髪」「雪女」「耳無し抱一の話」「茶碗の中」の4つの話がオムニバス形式で描かれる。4話は独立しているが、シナリオではシーンナンバーは通しでふられている。カンヌ国際映画祭審査員特別賞、ローマ国際映画祭監督賞、アカデミー賞外国映画賞、キネマ旬報ベストテン第2位、毎日映画コンクール撮影賞、美術賞の栄誉に浴したが、興行収入が制作費にとどかず、にんじんくらぶは倒産した。
1964年/時代劇/文芸プロダクションにんじんくらぶ/監督:小林正樹/原作:小泉八雲/主演:新珠三千代、岸恵子、中村賀津雄、中村翫右衛門
990円(税込)
2020-02-03
ハーフの差別と戦争の爪痕を鋭くえぐった水木洋子のオリジナルシナリオ。1959年公開。戦後、黒人の駐留米兵と日本人女性の間に産まれた小学生の姉弟。父はすでにアメリカへ戻り、母は死亡。二人は祖母と山間部で生活している。黒人ハーフをからかう差別用語が頻繁に飛び交う。まるでそれが日常の言葉のように。体が大きく力もある姉は同級生の男子に猛然と立ち向かう。和解はない。大人たちも今日のご飯を食べるので精一杯、余裕がない。そんな姉と弟にもやがて変化がおとずれる。キネマ旬報ベストテン第1位、毎日映画コンクール日本映画大賞、脚本賞、女優主演賞、演技特別賞を受賞。
1959年/大東/監督:今井正/主演:高橋恵美子、奥の山ジョージ、北林谷栄
990円(税込)
2020-02-03
日本映画の時代劇は1945年9月、GHQの指示により製作・上映が禁止され、解除されたのは6年後の51年3月(同年4月にサンフランシスコ講和条約締結)だった。52年、そんな時代を背景に村上元三の「加賀騒動」を橋本忍が脚色した。橋本は時代劇について「僕は時代劇のほうが好きなんだ。時代劇は目玉の松之助からずーっといろいろあって、伊藤(大輔)のオッチャン、稲垣(浩)さんや、戦争で死んだ山中貞雄とか、そういう一連の流れがあるわけね。(中略)本流は時代劇だよ。それを安易に棄てることはないという気がする。だから時代劇をやってみたいと思うね。基本的にこれは変身なんだよ。頭に髷が乗っかったら、今とは違うことをどんなにやってもいいんだよ。それを今の感覚で、どこまで持たせるかが、監督であり、ライターの芸だと思う」(月刊「シナリオ」91年9月号)と語っている。
「加賀騒動」では、藩内政治の抗争がお家騒動に発展するのだが、その原因はこれまでの慣例を破り足軽から家老にまで出世した武士の存在と、彼が足軽だった頃の恋心にあった。封建制度によって埋もれた純愛を理詰めの構成で浮かび上がらせる橋本忍の職人芸に感服。
1953年/時代劇/東映/監督:佐伯清/原作:村上元三/主演:大友柳太朗、小沢栄、加藤嘉、東恵美子、東野英治郎
990円(税込)
2020-02-03
このシナリオは「エデンの東」を念頭に小津安二郎が翻案したとされている。1957年公開。陰鬱な雰囲気をまとったストーリーに野田高梧は否定的で、小津としばしば対立したらしい。この作品の根底には戦争がある。その傷は深い。陰鬱は陰鬱として描かねばならない、そんな意志が物語の結構にうかがえる。悲劇の根本はなんなのか、いったい誰が悪いのか。それでもそれぞれの家族は明日を向いて生きていかなければならないのである。有馬稲子の純真さが辛い。
1957年/松竹/監督:小津安二郎/主演:原節子、有馬稲子、笠智衆、山田五十鈴
公開
1957(昭和32)年4月
製作/松竹大船撮影所 配給/松竹 上映時間/2時間20分 モノクロスタンダード
990円(税込)
2020-02-03
1934年の松竹蒲田作品「浮草物語」を大映でリメイクした作品。1959年公開。野田・小津コンビのシナリオは旅役者もの。舞台は志摩半島の港町。その町の劇場に数年ぶりで旅役者の一座がやってくる。町で料理屋を営む座長の愛人。彼女の家には成長した座長の息子がいた。しかし、座長には誰もがその仲を認める女役者がいる。雨の中、息子の存在を知った女役者と座長との罵り合いはこのシナリオの白眉である。その息子と一座の少女との駆け落ち事件もからみ、浮草稼業のドサ回りは大団円を迎える。
1959年/大映/監督:小津安二郎/主演:中村鴈治郎、京マチ子、川口浩、若尾文子、杉村春子
公開
1959(昭和34)年11月
製作/大映東京撮影所 配給/大映 上映時間/1時間59分 カラースタンダード
990円(税込)
2020-02-03
題名は「むねかたきょうだい」と読む。大佛次郎の同名小説を野田・小津コンビが脚色した。1950年公開。自由奔放に生きる妹と、好きな人がいたのに意に染まない見合結婚をした姉が、家庭の中で軋轢を生み対立する。古い生き方と新しい生き方。因習にとらわれた家庭とモダンな家庭。シナリオはそれら概念を姉妹をとおして際立たせ「本当に新しいものとは何か」を巧妙にあぶり出す。後半、妹に問いかける姉のセリフはけだし名言である。
第1回ブルーリボン賞 主演男優賞受賞。第5回毎日映画コンクール 助演賞受賞。
1950年/新東宝/監督:小津安二郎/原作:大佛次郎/主演:田中絹代、高峰秀子、上原謙、笠智衆、山村聡、高杉早苗
公開
1950(昭和25)年8月
製作/新東宝撮影所 配給/新東宝 上映時間/1時間52分 白黒スタンダード
990円(税込)
2020-02-03
1959年、小津安二郎の監督50作目。野田・小津コンビのシナリオは東京郊外の住宅地を舞台に、当時のあこがれであるテレビや洗濯機をめぐって大人と子供の世界をユーモアたっぷりにほのぼのと描いた。ただ、大人の三種の神器に翻弄される描写は辛辣で、ジュブナイルに偏らないバランスのよいホームドラマになっている。
1959年/松竹/監督:小津安二郎/主演:設楽幸嗣、島津雅彦、三宅邦子、笠智衆、佐田啓二、久我美子
公開
1959(昭和34)年5月
製作/松竹大船 配給/松竹 上映時間/1時間34分 カラースタンダード
990円(税込)
2020-02-03
夫婦生活の亀裂と再生を、妻役の木暮実千代を中心に描く。1952年公開。シナリオは野田高梧と小津安二郎の共作。妻は洗練された上流階級の家で育ったが、夫の佐分利信は信州の田舎から上京して今の地位を築いた苦労人である。都会人と田舎者のすれ違いが夫婦に投影さる。夫に無断で友達のところに泊まりにいく妻、外国に転勤が決まった夫。結婚して初めての双方の不在。そこで二人は初めて気づくのであった。毎日映画コンクールで佐分利信が男優主演賞受賞。
毎日映画コンクール男優主演賞受賞。
1952年/松竹/監督:小津安二郎/主演:佐分利信、木暮実千代、鶴田浩二、淡島千景、津島恵子
公開
1952(昭和27)年10月
製作/松竹大船 配給/松竹 上映時間/1時間55分 白黒スタンダード
990円(税込)
2020-02-03
経済白書が「もはや『戦後』ではない」と宣言した1956年、野田高梧と小津安二郎は復興を成し遂げようと勢いにのる東京を舞台に、幼子を失った若いサラリーマン夫婦(池部良、淡島千景)の心のゆらぎと再生を描いた。もはや戦後ではなくなっても、人々は戦争を忘却したわけではない。野田・小津シナリオには戦争がよく登場する。池部良は三井弘次、加東大介ら戦友と再会をはたし「シャンラン節」を合唱するのであった。
1956年/松竹/監督:小津安二郎/主演:池部良、淡島千景、岸惠子
公開
1956(昭和31)年1月
製作/松竹大船 配給/松竹 上映時間/2時間24分 モノクロスタンダード
990円(税込)
2020-02-03
題名は「こはやがわけのあき」と読む。シナリオは前年の「秋日和」完成後、野田高梧の蓼科の別荘雲古荘で小津と共同で執筆された。これまでずっと松竹で仕事をしてきた二人(野田高梧は1946年にフリー)にとって初の東宝作品となった。1961年公開。京都伏見の造り酒屋で繰り広げられる人間味あふれるホームドラマ。酒屋は当主の万兵衛が年老いたため長女の夫が実質的に切り盛りしている。早死した長男の嫁の再婚、次女の縁談、万兵衛の愛人問題などが錯綜する。
1961年/宝塚/監督:小津安二郎/主演:中村鴈治郎、原節子、司葉子、新珠三千代
公開
1961(昭和36)年10月
製作/宝塚映画 配給/東宝 上映時間/1時間53分 カラースタンダード
990円(税込)
2020-02-03
戦前に人気を博し、マスコミから大衆文芸と命名された白井喬二の同名時代劇小説が原作。「キネマ旬報」誌で山中貞雄はシナリオの構成が原作に忠実すぎたと反省している。わがままな領主とその圧政に苦しむ領民という構図をもっと浮き立たせたかったらしい。現実にそうしたシークエンスは国家検閲でカットされているという。
人間の誠実さをもとめる盤嶽が出会うのは人間の欺瞞に満ちた醜い姿。それでも盤嶽は理想を追い求めて旅をつづける。
新藤兼人は21歳のとき、たまたま尾道の映画館で「盤嶽の一生」を見て映画を志す決心をしたという。そのときの感動を次のように記している。
「メイン・タイトルと配役とスタッフが消えたとたん、流れるようなリズムがとらえた。そして代官が魚を食って、その食い残しを腰元が下げて、仲間部屋で下郎どもがグツグツと鍋で煮て、その匂いが窓からもれると、そこに腹のへった浪人盤嶽が立っている。
山中貞雄のシナリオは、導入部にさっと一筆おろしたようなうまみがある。単刀直入に無駄なく、見事にさっと一筆でしあげているのだ。映画の魅力はファースト・シーンできまるといわれているが、鮮やかなものだ。ほどよい省略は「間」と「スピード」のバランスで生まれるのだ」
1933年/時代劇/日活/監督:山中貞雄/原作:白井喬二/主演:大河内伝次郎、山本礼三郎、芝田新、谷幹一
550円(税込)
2020-02-03
1938(昭和13)年、伊丹万作は東宝で「巨人伝」を監督後、肺病に倒れ病床に伏す。シナリオ「無法松の一生」は、その病状が一進一退する合間に書かれ、脱稿したのは戦時下の昭和17年だった。伊丹は原作となった「富島松五郎伝」について、「無法松の一生について」(昭和16年12月)で次のように書いている。
「今の私の解釈を云うと、富島松五郎伝は、一つの風変わりな恋愛小説であるということに尽きる。(中略)これは、極度に抑圧せられた恋愛の一つの型であって、決して外の何物でもないのだ。例えば、敏雄に対する松五郎の献身的な愛情にしても、単に父性の本能だけでは説明がつかないが、抑圧せられた恋愛が形を変えて現れたものと見れば立派に説明がつく。つまり松五郎の場合、恋愛は形を変えて現れることはあるが、そのままではほとんど行動にも現れなければ意思表示もされないのだ。ことによると松五郎自身も、十分意識的ではなかったかも知れないとさえ思われる。そこにこの作の特殊性があり、同時に私の仕事の困難もある」
その「困難」はどのように克服されたか。ぜひ、シナリオで確認していただきたい。
底本:「日本シナリオ文学全集8 伊丹万作集」(理論社、1956年刊)
1943年/大映/原作・岩下俊作/監督:稲垣浩/主演:阪東妻三郎、園井惠子、沢村アキヲ、月形龍之介
990円(税込)
2019-05-14
青木研次のオリジナルシナリオ。1970年代初頭、全共闘運動が混迷の度を深めていくなか、合唱を通して自らの境遇を「革命」で払拭しようとする少年たちの姿を描く。
青木は自らのシナリオをノベライズし、角川書店より単行本(原作)を出版している。
緒方明が、ベルリン国際映画祭アルフレート・バウアー賞(新人監督賞)、毎日映画コンクール新人賞、ヨコハマ映画祭新人監督賞、芸術選奨新人賞、日本映画監督協会新人賞、受賞。香川照之が、キネマ旬報助演男優賞、ヨコハマ映画祭助演男優賞、毎日映画コンクール助演男優賞、受賞。藤間宇宙がヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞。
1999年/WOWOW、バンダイビジュアル/監督:緒方明/主演:伊藤淳史、藤間宇宙、香川照之
990円(税込)
2019-05-14
シナリオ・青木研次、監督・緒方明の「独立少年合唱団」コンビによる第二弾。胸のなかにずっと閉じ込めてきた中年男女の恋を描く。主演の田中裕子はシナリオを読んで出演を決めた。「この脚本は、淡々とした毎日を過ごすことを描こうとしてるし、読む人が自由に想像する部分を残してくれていて、必要以上に文字で説明しすぎていない。それでいて、彼女は自分の人生に対して悲しんで
ないですよね。そのたくましさみたいなものが、また寡黙であるがゆえに見えてきますよね。普通の女性の50歳というよりは、肉体労働者の50歳という感じが面白かったし、好きです」と語っている。
シナリオの青木研次が、芸術選奨文部科学大臣新人賞、菊島隆三賞、ヨコハマ映画祭脚本賞を受賞。
毎日映画コンクール監督賞、女優主演賞、録音賞受賞。
キネマ旬報日本映画ベストテン第3位、主演女優賞受賞。
報知映画賞最優秀主演女優賞受賞。
モントリオール世界映画祭審査員特別賞。
ヨコハマ映画祭日本映画ベストテン第2位、主演女優賞、助演男優賞受賞。
2005年/パラダイス・カフェ、パグポイント・ジャパン/監督:緒方明/主演:田中裕子、岸部一徳、仁科亜季子
990円(税込)
2019-03-20
ある日、新藤家にすみつくようになった野良猫の親子がこのシナリオの発想となった。その発想を「鬼婆」(1964年)と同じく伝承民話を基にオリジナルシナリオに仕上げた。サムライの生血をすする化け猫ものだが、普通の怪談映画とは一味も二味も違う。化け猫退治を命じられたサムライ(男)とそのサムライの喉仏に食らいつかなければならない化け猫(女)。皮肉な運命のめぐりあわせがスリリングに構成されていて目がはなせない。戦乱と飢え、民の流亡で混沌としている時代を背景に、男と女の葛藤がエロチックにが描かれる。
乙羽信子が第23回毎日映画コンクール女優主演賞受賞。
1968年/日本映画新社、近代映画協会/時代劇/監督:新藤兼人/主演:乙羽信子、太地喜和子、中村吉右衛門、佐藤慶
990円(税込)
2019-03-20
近代映画協会にとって「原爆の子」に続く劇団民藝との共同製作作品。当時、新藤兼人はこの文芸大作の脚本、製作を担当するにあたり、次のように記している。
「原爆の子」で現代の平和の問題を考えて見た私達は、この「夜明け前」では、逆に過去を振り返って見たいと思っている。何故なら現代のあらゆる改革の問題はすべて明治維新にかかっているし、ここを通ってはじめて現代が理解されるのではあるまいか、そしてそのためには藤村のこの「夜明け前」が最も適当であると考えたからである。(後略)
なお、方言指導を担当した島崎楠雄は藤村の長男で、「夜明け前」の映画化を亡き父にかわって許諾した。国産カメラ平和第一号を設計して使用したカメラマンの宮島義勇が、毎日映画コンクールで撮影賞受賞。
1953年/文芸/近代映画協会、劇団民藝/監督:吉村公三郎/原作:島崎藤村/主演:伊達信、細川ちか子、滝沢修、小夜福子、乙羽信子
990円(税込)
2019-03-18
月刊「シナリオ」誌に掲載された新藤兼人のシナリオ・演出ノートに「そんなことでシナリオ濹島東綺譚は断腸亭日乗から書き起こした」とあるため、原作は永井荷風「断腸亭日乗」とした。1992年6月、有楽町スバル座で封切り。大勢の客が入り、日本映画批評家賞、日本映画アカデミー賞など数々の賞を受賞する。特に主演の墨田ユキはほとんどの新人賞を独占した。
1992年/文芸/近代映画協会/監督:新藤兼人/主演:津川雅彦、墨田ユキ、乙羽信子
990円(税込)
2019-03-15
1954年、アメリカが無通告で実施したビキニ環礁の水爆実験で、第五福竜丸(第五福龍丸)は「死の灰」を浴びた。太平洋上で乗組員23人全員が2〜3シーベルトの放射能にさらされたのである。世界にさきがけて「原爆の子」で放射能の恐怖を描いた新藤兼人が、何度かの製作中止の危機にあいながらも、近代映画協会で自主製作した。新藤はシナリオを書くにあたって、当時、次のように書いている。
「なまなましい事実をシナリオ化することはむずかしい。事実に引ずられて真実が薄れ勝ちになるからだ。ましてこの福竜丸の場合のように多くの人間が多様な立場で事件にタッチしている複雑な問題では、一応はその関係者に会わねばならない。記録だけを頼りにシナリオは書けない。
静岡県庁、静大、焼津港とその周辺、愛知県三河三谷。東京では、東大清水外科、ラジオアイソトープ研究所、東大附属病院、東京第一病院、厚生省関係、読売、毎日、朝日の記者。千葉の化研、大阪市立大、などを歩いた。私を中心にスタッフ、五、六名が絶えず動いた。会って話をきいた人は六十名をこえた。鮪漁業のことも、放射能のことも、原子科学の常識も、私たちには一から勉強する必要があった。(後略)」
1959年/近代映画協会/監督:新藤兼人/主演:宇野重吉、乙羽信子、小沢栄太郎、千田是也
990円(税込)
2019-03-12
1959年、新藤兼人は広島県三原市の小学校教師の実践記録「らくがき黒板」を三原市で製作する。その時、瀬戸内海に浮かぶ孤島、宿禰島を発見。シナリオ「裸の島」の映画化に向けて大いなる希望を抱く。しかし、近代映画協会は54年以来、経営危機に陥っており、「裸の島」を製作して解散することを決意していた。60年2月、宿禰島にさつま芋を植え、本格的に準備が始まる。スタッフは瀬戸内海の佐木島に合宿し、上映のあてのない映画製作に執念を燃やした。
61年、「裸の島」は映連の日本代表作に選ばれ、モスクワ国際映画祭に出品される。一言もセリフのない「裸の島」は、悠久の自然の中の人間を描いた意欲作。同映画祭で大絶賛され、グランプリを受賞。これを契機に世界63カ国と輸出契約を結び、近代映画協会は解散を免れることができた。
簡潔なト書きだけで綴られたシナリオは、人間の生の営みを淡々と描き、感動を誘う。どこからともなく音楽が聞こえてきそうなシナリオである。
底本:「新藤兼人 人とシナリオ」(シナリオ作家協会、1996年刊)
1960年/近代映画協会/監督:新藤兼人/主演:乙羽信子、殿山泰司
990円(税込)
2019-03-12
親友のシナリオライター・長瀬喜伴の隣に建てた蓼科の山小屋(別荘)が、そのままシナリオのモデル(舞台)になっている。新藤は「ヨバイの八兵衛が集落に十三人もいるというシカケを思いついたとき、このシナリオはできたと思った」「構成もたてずに二日半で書き上げた」と書いている。戦争の傷跡と性をテーマにぴりりと引き締まった味のあるシナリオに仕上がった。その蓼科で合宿撮影中に長瀬は帰らぬ人となってしまった。
1966年/近代映画協会/監督:新藤兼人/主演:観世栄夫、乙羽信子、東野英治郎、小川吉信、島かおり
990円(税込)
2019-03-12
新藤家の人々に材をとり、終戦と軌を一にして崩壊した家族の話である。「落葉樹」「地平線」の要素も取り込みながら、新藤は日本の「家」とは何か、「家族」とは何かをつきつける。もともとは宇野重吉に勧められて書いた「女の声」という三幕ものの戯曲が基になっている。「悲しみは女だけに」も、港とか飲屋附近の情景は入るが、舞台劇のように展開する。三年後に新藤はセリフがいっさいない「裸の島」を脚本監督するが、「悲しみは女だけに」はほとんどト書きがない。セリフがドラマを進行させていく。シナリオ作法としては「しとやかな獣」と同じである。
1958年/家族/大映/監督:新藤兼人/主演:田中絹代、小沢栄太郎、船越英二、京マチ子、望月優子
990円(税込)
2019-03-12
新藤兼人は、昭和10年、新興キネマ現代劇部の東京移転にともない、美術監督の助手となって上京した。彼は以前目にした、東京への給電・給水のため奥多摩の村がダム建設によって湖底に沈むという新聞記事をシナリオにしたいと思っていた。東京へ移った新藤は現地の小河内村にも赴き、シナリオを書き上げた。
それが「土を失った百姓」である。ちょうど雑誌「映画評論」が募集していたシナリオアンデパンダンに応募した。シナリオはみごとに当選。新藤青年は撮影所の所長に念願の脚本部への異動を命じられたのだった。しかし、書きたいことを書くだけではやっていけないプロの厳しさに圧倒され、以後、新藤は劇というものの「術」を根本的に考えなおすことになった。
1937年執筆/未映画化/「映画評論」シナリオアンデパンダン当選
990円(税込)
2019-03-12
シナリオ執筆にあたり、新藤兼人は高橋竹山に取材した。そのことを月刊「シナリオ」77年3月号に次のように書いている。
「高橋竹山と話をした。竹山が生まれたときから六十六歳の現在まで棲んでいる青森県東津軽郡平内町小湊まで行って、そこでもくどいほど話をした。/高橋竹山の外側だけは、それでよくわかったが、内側がどれほどわかったかは疑問だ。人の心の内側などがそうかんたんにわかってはたまらない。(中略)/ただいえることは、こんなところではあるまいか、という推量はできる。独断ずきのライターという生業が、なんでも直ちに結論をつけなければ気がすまないという哀しい性に追いたてられ、わかった、おれの直感でとらえた、などとあっさりきめてしまうのである。/と、いうことになると、ライターはだれそれを描くといいながら、実はおのれを描いていて、だれそれを描いたような気になっているだけのことだろう。/それがいいたいのだ。ライターというものは、まぎれもなくおのれを描いているのだ。女が欲しい、人を殺したい、と願うのはドラマの人間ではなく自分なのである。」
「竹山ひとり旅」は、高橋竹山も自ら出演し、ドラマとドキュメンタリーの融合をはかった意欲作。文化庁奨励賞受賞。モスクワ国際映画祭に出品され、ソ連映画人同盟監督賞、ソ連美術家同盟賞受賞。
底本:「新藤兼人 人とシナリオ」(シナリオ作家協会、1996年刊)、月刊「シナリオ」1977年3月号
1977年/近代映画協会/監督:新藤兼人/主演:林隆三、乙羽信子、金井大、倍賞美津子
990円(税込)
2019-03-12
第二次大戦が始まると、アメリカは在米邦人を有無をいわさず強制収容所に拉致した。新藤兼人の叔父と姉も、それまで汗水たらして開墾してきた土地を捨てさせられ、収容所にいれられる。戦後何度か日本に帰ってきた叔父の話と、一度も日本に帰らなかった姉からの手紙をもとにシナリオは書かれた。「姉は何を考えながら、じっと耐えたのだろう」。なぜ姉は日本に帰らなかったのか。姉の心を知りたい。しかし、映画化にアメリカロケは欠かせない……。企画が実現したのは、第一稿を書いてから8年後だった。「地平線」をどうしてもフィルムにしたい。新藤の思いは、半年間にも及ぶアメリカロケで結実した。文化庁奨励賞受賞。
底本:月刊「シナリオ」1984年2月号
1984年/MARUGENビル/監督:新藤兼人/主演:藤谷美和子、乙羽信子、永島敏行、時任三郎
990円(税込)
2019-03-12
1944年、興亜映画から松竹大船脚本部に移ったばかりの新藤兼人に召集令状が届く。翌年、九死に一生を得て兄のいる尾道に復員。その尾道は、途方に暮れた復員兵が駅から棧橋にいたる道路にあふれかえっていた。連絡船はあるのだが、油がなくて航行できないのだ。新藤はそのときの人間の縮図ともいべき猥雑な光景が忘れられなかった。焼け野原の東京に戻り松竹大船に復帰。プロデューサーの月森千之助に「大曾根家の朝」を書いてみないかとすすめられたがすぐに断った。尾道で見た敗戦で混乱しあえぐ人々の姿を戦後の第一作としたいと胸に秘めていたのだ。
新藤は次のように書いている。
「わたしはこれを書いてみようと用意していたのだ。わたしがわたしの目で見た、わたしが感じた敗戦そのものを書くつもりだった」
「待帆荘」と題されたシナリオは映画化にあたって、タイトルを「待ちぼうけの女」に変えた。高峰三枝子扮する「女」の素性は思い切って省略されている。いったい彼女は何を待っていたのだろうか。
1946年/戦争/松竹京都/監督:マキノ正博/主演:小杉勇、高峰三枝子
990円(税込)
2019-03-12
「裸の島」で築いた合宿方式による集団創作の理念のもと、オールロケーションで製作された。新藤兼人は「日本中がわたしのスタジオなので、撮影所がなくても映画は作れる」という信条を貫いた。「人間」について新藤は宣伝プレスに次のように書いている。「私はもっとも人間的な人間のドラマをやりたい。もっとも単純な手段で。四人の平凡な人間をつれてきて極限状態においた。太平洋を漂流する小船が世界だ。一切の背景を断ちきり人間ただひとりの無粉飾な原始像におく。環境と人間、生命力とたたかい、神と人間とのつながり、人間という生きもののプライド、等々の周辺をめぐりたい。極限のなかでただひとりになった人間の裸心を実験室的な客観で描き出してみようと思う」。
「人間」は第17回芸術祭文部大臣賞、第2回日本映画記者会賞、ミリオンパール賞を受賞。また、亀五郎役の殿山泰司がNHK映画賞最優秀男優主演賞、毎日映画コンクール主演男優賞を受賞した。
底本:「'62 年鑑代表シナリオ集」(シナリオ作家協会編、ダヴィッド社刊)
1962年/近代映画協会/監督:新藤兼人/原作:野上彌生子/主演:殿山泰司、佐藤慶、乙羽信子、山本圭
990円(税込)
2019-03-12
新藤は、岩波書店から出版された被爆した子供たちの文集「原爆の子」(長田新編)に刺激され、看護婦をしていた姉が広島で救助にあたった話、被爆した親戚の実話などを取り入れてシナリオを書いた。近代映画協会を設立して二年目、新藤と吉村公三郎は、この作品を真の自主映画として製作しようとした。しかし資金がない。新藤は前作「愛妻物語」で親しくなった宇野重吉に相談し、劇団民芸と制作費を折半することにした。主演は乙羽信子。原爆で両親を失い島へ逃れた幼稚園の先生役である。彼女は当時、大映の専属女優だったが、社長の永田雅一に直に交渉し出演の許しを得た。ストーリーは、乙羽がかつての教え子を4年ぶりに訪ねるというもの。乙羽の復興を予感させるような瑞々しさ、原爆症という地獄を背負って苦しむ人々の惨状が淡々と描写される。まだ、アメリカと講和条約が締結される前の、原爆をテーマにした世界初の劇映画シナリオである。
チェコスロバキア第八回国際映画祭平和賞、英国ブリティッシュフィルムアカデミー国連賞、ポーランドジャーナリスト協会名誉賞、フランス映画愛好家連盟賞を受賞。
底本:「新藤兼人の足跡──1 青春」(岩波書店 1993年刊)
1952年/近代映画協会、民芸/監督:新藤兼人/主演:乙羽信子、滝沢修、清水将夫、宇野重吉
990円(税込)
2019-03-12
新藤と監督の吉村公三郎は、まず京都宮川町の遊廓を取材。つづいてその隣に位置する伝統と格式を重んじる祇園を宮川町と比較しながら描こうと決め、祇園も取材した。シナリオの構成の糸口は、祇園で小料理屋を営む遊び人の主人と知り合ってつかんだ。新藤は入念な調査を基に一気にシナリオ「肉体の盛装」を書き上げる。
しかし、松竹での撮影が中止となり、新藤と吉村は松竹と決別し、製作の絲屋寿雄らと独立プロダクション近代映画協会を設立する。「肉体の盛装」は東宝と契約したが、争議のあおりをうけて京都ロケ中に中止。東映にも断られ、大映で「偽れる盛装」と改題して公開された。
映画は大ヒットし、毎日映画コンクール脚本賞、監督賞などを受賞した。
1951年/大映/監督:吉村公三郎/主演:京マチ子、藤田泰子、進藤英太郎、菅井一郎
990円(税込)
2019-03-12
新藤が幼少の頃、母の蒲団にもぐりこむと「安達ヶ原の鬼婆」と「肉づきの面」の話を聞かされた。飢餓に苦しむ老婆と嫁いじめの内容は、虐げられた人間たちの物語である。そのイメージをもとに、「穴」というシチュエーションを思いついたとき、一息にシナリオは書き上げられた。
千葉県印旛沼北端の芒ヶ原でプレハブ合宿、東京オリンピックに沸き立つ中、汗と泥にまみれて撮影は行われた。
吉村実子がブルーリボン新人賞、黒田清己が撮影賞受賞。
底本:「新藤兼人 オリジナルシナリオ集」(ダヴィッド社 1979年刊)
1964年/時代劇/近代映画協会/監督:新藤兼人/主演:乙羽信子、吉村実子、佐藤慶、殿山泰司、宇野重吉
990円(税込)
2019-03-12
公開の前年、新藤兼人は吉村公三郎らと独立プロダクション「近代映画協会」を設立。その頃、新藤は「待ちぼうけの女」「安城家の舞踏会」「お嬢さん乾杯」と立て続けにシナリオを書く。そんな多忙な中、「亡き妻へのレクイエムを書かなければ自分の戦後は始まらない」という思いにつき動かされ、映画化のあてのない「愛妻物語」を書き上げた。64年、ついに念願の「愛妻物語」を撮ることになった。「妻の心を他人に触れられたくない」というこだわりから、自ら監督することに。監督デビュー作である。亡き妻と自らの脚本修行時代の生活を戦時中の映画界を背景に描く。献身的な妻が胸をうつ名作。
底本:「日本シナリオ大系2」(シナリオ作家協会編纂)
1951年/大映/監督:新藤兼人/主演:乙羽信子、宇野重吉、滝沢修
990円(税込)
2019-03-12
ある芸能事務所の会計担当の女性が社長を籠絡して家を建てた、という実際に起きた事件に想を得て、新藤兼人が舞台劇ふうなシナリオに書き下ろした。執筆しているときは新藤自身が監督する予定だったが、川島雄三がぜひやらせてほしいといってきた。新藤は「川島雄三君はいかなるイメージを展開するであろう」と、監督を彼にゆずることにした。
第二次大戦に破れて間もない日本の家族が主役である。敗戦後、日本から軍人は消滅し、家父長制も大きく揺らいだ。シナリオに登場する父親は元海軍中佐。すでにその威厳はないが、家族ゆえ子は父を助けようとする……。
「しとやかな獣」はセリフが物語を進行させていく。一切セリフのない「裸の島」と対極をなすシナリオといっていいだろう。
底本:「新藤兼人 オリジナルシナリオ集」(ダヴィッド社 1979年刊)
1962年/近代映画協会/監督:川島雄三/主演:若尾文子、伊藤雄之助、山岡久乃、川畑愛光、浜田ゆう子
990円(税込)
2019-03-07
明治から昭和初期に起きたテロリズムに、笠原和夫(当時42歳)が綿密な取材をもとに挑戦。日蓮宗、天皇制など日本の禁忌にリアリズムで肉迫、暗殺の一瞬の光芒を東映オールキャストで描く。原作からはなれた、ほぼオリジナルシナリオである。
1969年、第16回京都市民映画祭脚本賞受賞。
※原作者の鈴木正さんの所在を、版元、ビデオ会社などに問い合わせたのですが分かりませんでした。ご存じの方がいらっしゃいましたら、情報をお寄せください。
底本:「笠原和夫 人とシナリオ」(シナリオ作家協会、2003年刊)
1971年/監督:中島貞夫/原作:鈴木正/主演:千葉真一、片岡千恵蔵、高倉健、菅原文太
990円(税込)
2019-01-31
1960年代後半、当時の若松孝二が作り出すピンク映画は若者たちを熱狂させ、時代の先端を駆け抜けていた。若松プロダクションの門を叩いた吉積めぐみの目を通して、若松孝二と共に映画、青春、そして恋、なにもかもが危うくきらめいていた一瞬の時を描く、青春群像劇。映画界を始めレジェンドたちが実名で登場する。2012年10月の若松孝二監督逝去から6年、「ここではないどこか」を探し続けた映画人のほろ苦くて愛おしい一瞬を描く。登場人物をつぶさに取材したシナリオは当時の時代感が溢れている。
2018年/若松、スコーレ、ハイクロスシネマトグラフィ/監督:白石和彌/主演:門脇麦、井浦新、タモト清嵐、毎熊克哉、山本浩司
990円(税込)
2019-01-30
1988年7月、にっかつロマンポルノは終焉を迎え、これまでロマンポルノをかけていた映画館は「ロッポニカ」と改名、一般映画を上映することになった。ロッポニカはわずか半年間しか続かなかったが、その第一作となった「噛む女」のように佳作が作られている。
原作はストーリーの大枠ぐらいで、ほぼ荒井晴彦のオリジナルシナリオ。結婚とは何か、家庭とは何か、子供とは何か、愛人とは何かといった根本的な問題が、スリリングなストーリー展開の中でキレの良いセリフで語られ、思わずハッとさせられる。怖いホームドラマである。
底本:決定稿
1988年/にっかつ/監督:神代辰巳/原作:結城昌治/主演:永島敏行、桃井かおり、余貴美子
990円(税込)
2019-01-30
当初は立松和平の「ブリキの北回帰線」が原作になるはずだった。しかし、プロデューサーの岡田裕はもう少しウジウジとした日本的なもののほうがいいんじゃないかと考え、結論を引き伸ばしていた。そこに出てきたのが同じく立松和平の長編小説「遠雷」である。崩壊していく農村を描いた同小説は、映画では珍しいということで、さっそく荒井晴彦がシナリオにとりかかることになった。
主人公の満夫は普通の青年。トマトを作るしかないメリハリのない日常を生きている。都市化の波にさらされながらも、満夫の農村での生活が崩壊することはない。
そんな映画になりにくい主人公であるが、あえて荒井と監督の根岸は安易に犯罪などには走らない「大多数の若者」像を描くことに挑戦した……。
底本:月刊「シナリオ」1981年12月号
1981年/青春/ATG/監督:根岸吉太郎/原作:立松和平/主演:永島敏行、石田えり、ジョニー大倉
990円(税込)
2019-01-30
「金大中事件」に真っ向から挑んだ意欲作。原作は金大中を守るボディガード側から書かれているが、シナリオではKCIAと共に事件を起こす日本の自衛官が主人公。時代は1973年、金大中の暗殺指令に従わなければいけない人間と守らなければいけない人間が、それぞれ丁寧に書きこまれ、ポリティカルを背景とした群像劇になっている。
2002年/シネカノン/監督:阪本順治/原作:中薗英助/主演:佐藤浩市、キム・ガプス、チェ・イルファ、筒井道隆
990円(税込)
2019-01-30
実験映画・演劇の殿堂として人気を博した新宿文化地下の「アンダーグラウンド蠍座」。そのこけら落としとして、長蛇の列ができる熱狂の中、「銀河系」は上映された。足立正生は蠍座が発行した「シアタースコーピオNo.1 足立正生シナリオ集」の「はじめに」で次のように書いている。
「(前略)視すぎるまでに視ようとするために物語る自己。視えないが故に、視たいものを表現しようとする自己。……その二つが、一枚岩的な表裏を形造った時、戯作者としての「私」が登場するのだろうか。/「視る」者は、おおむね「視たい」だけだという。自意識中心の単なる記録者にすぎないという表現論の逆説がある。/しかし、本当は、表現するものの全ては、「視える」ものなのだから、私にとって、その逆説こそ、表現の定説なのである。/私から捨象し続ける「私」と、表現に於ける自意識のエネルギーを持ち続けようとする「私」こそがあるのだろう。/ここに掲げられた作品の中で模索しているのも、そのことなのである。」
1967年/自主製作/監督:足立正生/主演:花上晃、竹邑類、真野三種、南裕輔
990円(税込)
2019-01-30
1963(昭和38)年11月
全日本学生映画祭にて上映
16㍉・白黒
上映時間/56分
○スタッフ
監督………………足立 正生
制作………………足立 正生
日本大学芸術学部新映画
研究会・鎖陰制作委員会
音楽………………一柳 慧
○キャスト
A…………………竹田ひろし
ユラ………………木村 京子
ミワ………………村岡久美子
990円(税込)
2019-01-30
1960年代、アングラ映画の寵児と呼ばれた伝説の監督、足立正生の35年ぶりの映画作品。主人公Mのモデルはテルアビブ空港乱射事件でひとり生き残った岡本公三。牢獄に幽閉されたMは厳しい拷問を受け、様々な幻想に襲われる。カフカの「城」を思わせるような精神の迷宮をさまよう青年をとおして、人間の魂の叫びを描いた傑作である。
2007年/光源舎/監督:足立正生/主演:田口トモロヲ、PANTA、流山児祥、大久保鷹、梶原譲二、ARATA
990円(税込)
2018-12-25
「切腹」(62年)と同じ原作・脚本・監督による本格時代劇である。封建体制を守るため、会津藩が馬廻り組の藩士に無理難題をおしつける。じりじりと追い詰められていく藩士。彼は虚しい抵抗と承知のうえで反旗を翻す(視点を変えれば、この抵抗は自分のこれまでの人生を精算する絶好の機会でもあった)。全編に伏線がはりめぐらされたシナリオはまさに理詰めで綿密に構成されており、読者を釘付けにする。会津藩の権力をかさにきた無茶ぶりと藩士の葛藤はサスペンスをうみ、そこに恋愛、友情、家族もからんで輻輳し、ついに藩士の怒りは爆発するのであった。
第28回ヴェネツィア国際映画祭・国際映画評論家連盟賞。
1967年キネマ旬報日本映画第1位。
「上意討ち」は舞台やテレビドラマでもたびたびリメイクされているが、2013年2月にテレビ朝日系列でリメイクされたシナリオは、橋本忍が自ら改訂したものである。
1967年/時代劇/三船プロ+東宝/監督:小林正樹/原作:滝口康彦/主演:三船敏郎、加藤剛、司葉子、仲代達矢
990円(税込)
2018-12-25
滝口康彦の「異聞浪人記」( サンデー毎日大衆文芸賞佳作受賞)を橋本忍が脚色した傑作時代劇。原作を読んで面白いと思ってから1年後、11日間で書き上げた。組織と個人の対立である。井伊家を代表する家老と切腹の座についた浪人。対峙するこの二人の回想が巧妙に現実と切り結びながら、物語は実に論理的に意外性に満ちた展開をしていく。橋本忍ならではのまったく無駄のない完璧なシナリオである。
カンヌ映画祭審査員特別賞受賞。
1962年/時代劇/松竹/監督:小林正樹/原作:滝口康彦/主演:仲代達矢、岩下志麻、石浜朗、三國連太郎
990円(税込)
2018-12-25
原作は作家・新田次郎のベストセラー「八甲田山死の彷徨」。封切当時で70万部も売れていた。雪山での遭難を描いた小説であるため、映像化は不可能と言われていたが、7億円もの製作費と、豪華な俳優陣、3年に及ぶ歳月をかけて、八甲田山の惨劇がスクリーンに蘇った。
日露戦争の2年前、明治35年に実際に起きた陸軍歩兵連隊の雪中行軍遭難死という重い題材にも関わらず、観客が映画館の周りを行列し、それまで「日本沈没」がもっていた日本映画興行記録にわずか1週間で達し、未曽有の配収記録を樹立。橋本プロ(橋本忍が野村芳太郎らと設立)としては「砂の器」のヒットに次ぐ快挙となった。
被害が甚大だった青森第五連隊と被害が軽微だった弘前三十一連隊。それぞれの雪中行軍が交互に描かれ、個人と組織の関わり、人間と自然の関わりがあぶりだされる。第五連隊の神田大尉に扮した北大路欣也が血を吐くように叫ぶ「天は……天は我々を見放した」のセリフが流行した。
第1回日本アカデミー賞主演男優賞(高倉健)、音楽賞(芥川也寸志)を受賞。
1977年/戦争/橋本プロ、東宝、シナノ企画/監督:森谷司郎/主演:高倉健、北大路欣也、加山雄三、三國連太郎、丹波哲郎、緒形拳
990円(税込)
2018-12-22
中年男女のスワッピング(夫婦交換)に息子の成長譚をからめたロマンポルノの意欲作。前年、「赫い髪の女」「神様のくれた赤ん坊」で高評価を得て勢いに乗る荒井晴彦が、かけ離れた2つのプロットを絶妙な筆さばきで結合させたオリジナルシナリオである。監督の田中登が準備稿を読んで「恐ろしく滅茶苦茶で、恐ろしく傑作なシナリオ」と唸ったという。
ここに電子化したシナリオは月刊「シナリオ」に掲載された決定稿を底本としているが、決定稿の撮影台本とつきあわせ、省略されていた歌詞をいくつか復活させた。
1980年/にっかつ/ロマンポルノ/監督:田中登/主演:亜湖、北原里英、野沢晶則
990円(税込)
2018-12-22
寺久保友哉の短編小説集「恋人たちの時刻」に収録されている「翳の女」を荒井晴彦が脚色。原作では北大生の主人公を、シナリオでは人生の岐路に立つ多感な予備校生に変更、彼を童貞とすることで恋愛と性の問題を掘り下げた。男と女にとって処女性とは何を意味するのか、登場人物たちが生きざまをもって答えを模索する。
イゾルデ「男の子はきれいな女の子見るとネたがるわ、大抵の女の子はそれを拒む。典子は拒まなかった。悪く言われる筋合はないわ」/洸治「でも、それ、普通じゃない」/イゾルデ「普通である必要なんかないじゃない」/洸治「……」/イゾルデ「あなた、好きな子とネたいと思わないの?」/洸治「……」
1987年/角川春樹事務所/青春/監督:澤井信一郎/原作:寺久保友哉/主演:前川麻子、加藤善博、石井きよみ
990円(税込)
2018-12-22
新宿ゴールデン街を舞台にした日活ロマンポルノ。まだ何者でもない脚本家志望の青年が主人公、奔放な日々がやりきれなくて切ない思いで過ぎていく……。裸さえ入れれば何を書いてもいいといわれたロマンポルノは、裏を返せばシナリオライターのオリジナル性が問われた日本映画にとって稀有な現場でもあった。
同シナリオは荒井晴彦のデビュー作。ロマンポルノ屈指の傑作である。
荒井晴彦が「湯布院映画祭通信」83年夏に書いた文章を抜粋する。
「原稿を読んだ三浦さんが『新宿乱れ街 いくまで待って』とタイトルをつけた。監督が登場人物たちに××志望とタイトルを入れることを思いついた。俺たちを“志望の青春”と括ったのだ。ちょっと違うぜと思った。なりたいのじゃなくてなれないのだ。志望することにもウックツしていた。夢も志望もないのがホントのとこだった。大学をちゃんと出て、映画監督になろうと思って映画会社に入り、給料貰って助監督をやり、そりゃ、苦労はしただろうけど、結果オーライで、監督になった人には分んないだろうなと思った。
三浦さんがエイガじゃなくて芝居のハナシに変えられないか、アングラ劇団かなんかのと言った。会社が嫌がるんだよ、こういうの。俺は変えられませんと答えた。俺は日活への屈折した思い、憧れと反撥をやりたかった。これは女をメジャーに奪られたハナシなんだと思っていた。
撮影所の食堂で主演の山口美也子を紹介された。昨日、ホンを貰って、読んで、夜、泣きましたと美也子が言った。驚きました、どうして、こんなに……いろいろ思い出しちゃってと彼女は照れたように笑った。何と応えていいか分らず、俺も笑った。うれしかった。
この時、エイガをやろうと初めて思ったのかも知れない。三十になって半年、夏の初めだった。」
1988年/ロマンポルノ/青春/日活/監督:曽根中生神代辰巳/主演:山口美也子、神田橋満、余貴美子
990円(税込)
2018-10-30
火野葦平の芥川賞受賞作「糞尿譚」が原作。当初は山本薩夫監督で映画化される予定だったが、クライマックスの糞尿を引っかけるシーンが問題となり、頓挫。当時、橋本忍は次のように書いている。
「しかし糞尿譚をやることは、クライマックスであり、頂天である。ラストの小森彦太郎の押さえに押さえた怒りの爆発が見世場であって、肝腎かなめのそこをやらなきゃ糞尿譚自体の話が成りたたないことは企画の当初から分かっていることであり、今更、それを云々されることは、何か私には今だに納得の行かない妙な話である。(中略)なんのかんのとゴタクを並べてみたが、折角書いたこの種のシナリオがお倉になることは、第一金にもならず、新しい冒険的な型破りなものに対する私自身の意慾が減殺されて、非常に残念であると云うことだ。」
しかし、橋本がこの文章を書いてからすぐ、後に盟友となる野村芳太郎監督で映画化が決定。もちろん、クライマックスのシーンはしっかり描かれている。
1957年/文芸/松竹/監督:野村芳太郎/原作:火野葦平/主演:伴淳三郎、森繁久彌、山茶花究、沢村貞子、佐賀三智子
990円(税込)
2018-10-30
笠原和夫がギリシャ悲劇を念頭に書き上げた名作シナリオ。
傑作の誉れ高き同作品であるが、正月第二週に公開されたときは東映が期待したほどの興行成績ではなかった。火をつけたのは三島由紀夫が「映画芸術」1969年3月号に書いた批評である。それまで批評というものとは縁がなかったヤクザ映画が、はじめて脚光を浴びたのである。少し長くなるが、三島の映画評を抜粋する。
これは何の誇張もなしに「名画」だと思った。何という自然な必然性の糸が、各シークエンスに、綿密に張りめぐらされていることだろう。セリフのはしばしにいたるまで、何という洗練が支配しキザなところが一つもなく、物語の外の世界への絶対の無関心が保たれていることだろう。(それだからこそ、観客の心に、あらゆるアナロジーが許されるのである。)何と一人一人の人物が、その破倫、その反抗でさえも、一定の忠実な型を守り、一つの限定された社会の様式的完成に奉仕していることだろう。たった一個所、この小世界が破れかかる右翼団体のエピソードがあるが、それすら麻薬密売をたくらむ暴力右翼で、何らイデオロギーも、その批判も匂わない。何という絶対的肯定の中にギリギリに仕組まれた悲劇であろう。しかも、その悲劇は何とすみずみまで、あたかも古典劇のように、人間的真実に叶っていることだろう。
(後略)
1968年/東映ヤクザ/監督:山下耕作/主演:鶴田浩二、若山富三郎、藤純子
990円(税込)
2018-10-30
「昭和の劇」(太田出版)で荒井晴彦が「これは傑作です」と大絶賛。笠原本人は京都の旅館に缶詰になり、そうとう苦しんで書いたらしい。ヤクザ映画にしてはしっとりと濡れた、エロチシズム漂う男と女の話になっている。
1970年9月に着手し、大阪の松島、伊東、天城、大森、梅屋敷など各地のシナリオ・ハンティングを経て12月初旬に第一稿を執筆。同月29日に直し作業を終了。
底本:「笠原和夫 人とシナリオ」(シナリオ作家協会、2003年刊)
1971年/東映ヤクザ/監督:山下耕作/主演:鶴田浩二、安田道代、若山富三郎、渡瀬恒彦
990円(税込)
2018-10-30
「女渡世人」シリーズは、同じく藤純子主演「緋牡丹博徒」シリーズが陥った形式主義を打ち破ろうとして作られた。「おたの申します」はその第二作目。任侠の掟と心情の相克が、これでもかと藤純子にのしかかる。ついに我慢の限界を超え、彼女が脇差を抜いた相手とは……。ラストシーンのセリフ「お母アさん……!」が圧巻。
1971年/東映ヤクザ/監督:山下耕作/主演:藤純子、菅原文太、島田正吾、三益愛子
990円(税込)
2018-10-30
東映の岡田茂社長が先に「県警対組織暴力」というタイトルを思いついた。この題名で実録路線ものを書いてほしいと笠原和夫に依頼。笠原が自ら「会心の出来」と言ったシナリオが完成する。準備稿が直しなしのまま決定稿となった。
警察とヤクザが対立する構図の中、菅原文太演じる警官は両者に深く通じているがゆえにどちらにも帰属できず、すでに家族にも見放され、己の行き場を見失っていく。アイデンティティの喪失もまた人間の在り様であるという笠原和夫のメッセージには、世の中の底知れない混沌が渦巻いている。
1975年/東映ヤクザ/監督:深作欣二/主演:菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫、菅佐野浅夫、山城新伍
550円(税込)
2018-10-30
未映画化の梗概(シノプシス)。ホン読みのとき、岡田茂京都撮影所所長に「ちょっと待て。最後はどうなるんだ」と聞かれ、笠原は「全員、討ち死にで負ける話です」と答えた。すると、岡田は「そんな負ける話なんかやってどうすんのや!」と激怒し、企画は一遍に流れてしまった。ペラ350枚のシナリオ(第一稿)は、頭にきた笠原が破り捨ててしまって残っていない。
奥羽越列藩同盟への新発田藩の裏切りを書いたシノプシスである。梗概なので短いが、抜群に面白い集団抗争時代劇になっている。
底本:「笠原和夫 人とシナリオ」(シナリオ作家協会、2003年刊)
1964年/非映画化/時代劇/梗概
990円(税込)
2018-10-30
妻に先立たれた初老の父親と婚期を迎えた娘を嫁がせた父親の「老いと孤独」というテーマを描く。似たテーマの他作品もあるがセリフ、風俗などより現代のホームドラマに近くなっている。
主演の笠智衆は孤独な父親を見事に演じ、娘役の岩下志麻も快活な演技を見せ、これまでの小津作品とは違った味わいを醸し出している。また、笠智衆と中村伸郎、北竜二演じる友人たちとの応酬が喜劇味を加えている。この作品を発表した翌年の1963年、小津監督は60歳の誕生日に亡くなったため、この作品が彼の遺作となる。
1962年/松竹/監督:小津安二郎/主演:岩下志麻、笠智衆、佐田啓二、岡田茉莉子、中村伸郎、東野英治郎
公開
1962(昭和37)年11月
製作/松竹大船 配給/松竹 上映時間/1時間53分 カラースタンダード
550円(税込)
2018-08-08
嵐寛寿郎プロダクションで座付作者としてシナリオを執筆していた山中貞雄が、監督デビューした作品。長谷川伸の「源太時雨」を原作にシナリオも山中自身が書いている。B級映画を専門に製作していた嵐寛寿郎プロダクションの作品は、批評家からほとんど無視されていたが、当時、キネマ旬報に勤務していた岸松雄が同誌に絶賛の評論を書き、山中貞雄の類稀な才能を世にしらしめた。
リズミカルなサイレント時代劇のシナリオを堪能してほしい。
1932年/時代劇/サイレント/監督:山中貞雄/原作:長谷川伸/主演:嵐寛寿郎、市川寿三郎、片岡市太郎、松浦築枝
550円(税込)
2018-08-08
山中貞雄が「海鳴り街道」に次いで監督した日活時代最後の作品。主演・黒川弥太郎。
監督
山中貞雄
キャスト
森の石松=黒川弥太郎 石松女房・お半=花井蘭子 父親源兵衛=横山運平 妹お静=深水藤子 小松村の七五郎=清川荘司 お勘婆さん=小松みどり 清水次郎長=鳥羽陽之助 武井の安五郎=香川良介 郡田村の吉兵衛=今成平九郎 大瀬の半五郎=磯川勝彦 旅人広造=松下猛男 旅人虎三=若松文男 神沢の小五郎=南城龍之助 法印大五郎=紺屋清 桝川仙右衛門=楠栄三郎 荒川の新太=小森敏 保下田の久六=佐文字壱朗 酌婦おろく=伊村利江子
脚本
山中貞雄
音楽
西梧郎
その他スタッフ
原作/山中貞雄 撮影/荒木朝二郎 録音/中村敏夫
<ご注意>
戦前の製作作品(1942年以前)は、資料の不足などの事情により、当HPのデータの内容が必ずしも正確なものとは限りません。
<日活サイトより>
550円(税込)
2018-08-08
歌舞伎界に反逆した前進座を初めて起用した「街の入墨者」は、フィルム消失のため見ることはできないが、山中貞雄の最高傑作との評もある。「街の入墨者」のシナリオ化にあたって、岸松雄は次のように書いている。
「原作は長谷川伸だが、例によって山中はそれに縛られることなく、思いのまま脚色の筆を走らせた。原作で扱われていなかった(主人公の岩吉が島から帰って来るまでの)前半部分を新しく書き足したり、おなじみの茂十を長屋に登場させたりしているのを見てもわかろう。
山中はこのシナリオを書くにあたってエルンスト・ルビッチュの「私の殺した男」を参考にしたというが、その他「フランダースの犬」や「キック・イン」などからも学ぶところが多かったとも聞いた。ファースト・シーンのごときはデュヴィヴィエの「地の果てを行く」の出だしから思いついたものであることは明らかである。
しかしシナリオの執筆は難航をきわめた。執筆場所を転々と変えたが、なかなか完成にいたらず、準備期間ギリギリまでネバって、ついに最後三分の一ぐらいを残し、未完のまま撮影に入ることになってしまった。従って最後の三分の一ぐらいの部分は、撮影のつど、ほとんど口立てにひとしいプリント刷りが渡されたので、まとまった形では残っていない。しかもそのつどのプリント刷りを保存していた前進座の人びとも火災のためことごとく焼失してしまった。ここに掲載されたシナリオが、未完の、ということは、シナリオとしてまとまっていないのは、そのためである。残念至極というほかはない。」
1935年度キネマ旬報ベストテン第2位(1位は成瀬巳喜男脚本・監督「妻よ薔薇のように」)。
1935年/時代劇/日活/監督:山中貞雄/原作:長谷川伸/主演:河原崎長十郎、中村翫右衛門、山岸しづ江、河原崎國太郎
990円(税込)
2018-07-31
"浪漫堂シナリオ文庫で小津安二郎と野田高梧の共作シリーズ第三弾。日本映画の金字塔的作品。
尾道に住む老夫婦は東京で生活する息子や娘とその家族に会いに来る。初めは歓待した息子娘は忙しいことを理由に老夫婦をたらい回しにする。唯一、戦争で死んだ次男の嫁の紀子だけが心から歓待する。大家族が解体して核家族化する戦後の庶民の姿、そしてその心情をみごとに描いたドラマ。「紀子」は今回は若い未亡人である。
「晩春(1949)」と「麦秋(1951)」と「東京物語(1953)」は「紀子3部作」と呼ばれることもある。「紀子」役を原が演じているが三本のドラマの因果関係はない。
毎日映画コンクール 女優助演賞受賞。サザーランド杯受賞。キネマ旬報日本映画 オールタイム・ベストテン1位受賞。キネマ旬報オールタイム・ベスト映画遺産200 日本映画篇1位受賞。英国映画協会『Sight&Sound』誌映画監督が選ぶ史上最高の映画ベストテン1位受賞。
1953年/松竹/監督:小津安二郎/主演:原節子、笠智衆、東山千栄子、杉村春子、山村聡
公開
1953(昭和28)年10月
製作/松竹大船 配給/松竹 上映時間/2時間15分 モノクロスタンダード"
990円(税込)
2018-07-31
浪漫堂シナリオ文庫、小津安二郎と野田高梧の共作シリーズ第二弾。
「晩春」に続く「紀子」の結婚を描いた作品。「晩春」では婚期を逃した娘と妻を亡くした父を描いているが、「麦秋」では大家族の中の娘(紀子)の結婚がモチーフとなっっている。紀子は戦死した兄の親友の後添えとなることを決意する。その結婚を機に大家族は離散する。
晩春のバリエーション的な作品と思われがちだが「父娘の物語」から「麦秋」で「大家族の物語」となり「東京物語」では核家族化へと進んでいく。
「晩春(1949)」と「麦秋(1951)」と「東京物語(1953)」は小津映画で「紀子3部作」と呼ばれることもある。「紀子」役を原が演じているが三本のドラマの因果関係はない。
キネマ旬報ベストテン第1位受賞。芸術祭文部大臣賞受賞。ブルーリボン賞監督賞受賞。
毎日映画コンクール日本映画賞、女優演技賞受賞。東京都民映画コンクール第1位受賞。
1951年/松竹/監督:小津安二郎/主演:原節子、笠智衆、淡島千景、菅井一郎、東山千栄子
公開
1951(昭和26)年10月
製作/松竹大船 配給/松竹 上映時間/2時間4分 白黒スタンダード
990円(税込)
2018-07-31
浪漫堂シナリオ文庫、小津安二郎と野田高梧の共作シリーズ第一弾。
広津和郎の短篇「父と娘」からの作品。
この作品から小津と野田は再びタッグを組み小津の遺作「秋刀魚の味」まで13作を製作している。「晩春」」は小津が原節子と初めてコンビを組んだ作品でもある。小津の作品に原は6作に出演している。
娘の結婚を巡るホームドラマを小津が初めて描いた作品であり、その後の小津作品のスタイルを決定した。小津にとって、一転して娘の結婚をめぐるホームドラマという普遍的な題材は興味を引くものだった。
「晩春(1949)」と「麦秋(1951)」と「東京物語(1953)」は小津映画で「紀子3部作」と呼ばれることもある。「紀子」役を原節子が演じているが三本のドラマの因果関係はない。
キネマ旬報ベスト・テン日本映画部門1位受賞。
1949年/監督:小津安二郎/原作:広津和郎/主演:原節子、笠智衆、月丘夢路
公開
1949(昭和24)年9月
製作/松竹大船 配給/松竹 上映時間/1時間48分 白黒スタンダード
990円(税込)
2018-06-04
企画の発端は萩尾望都の「トーマの心臓」。監督の金子修介は、少年愛のドラマを少女が演じたら面白いかもしれないと思っていた。当時、ATGの社長だった佐々木史郎に話をもっていく。乗ってくれたが、金子はシナリオで苦しむ。そこで岸田理生に書いてもらうことに。その第一稿がこのシナリオである。
製作会社が変わり、映画は2年後に完成。郵便集配人や母などがなくなり、少年4人だけの物語になっている。
1988年/青春/ニュー・センチュリー・プロデューサーズ/監督:金子修介/主演:宮島依里、大寶智子、中野みゆき、水原里絵
○公開
1988(昭和63)年3月
製作/ニュー・センチュリー・プロデューサーズ、ソニービデオソフトウェアインターナショナル
配給/松竹
上映時間/1時間30分
(カラー・ビスタ
770円(税込)
2018-06-04
寺山修司が短歌からラジオの世界に挑戦した22歳の処女作。
1954年、早稲田大学に入学した寺山はその年に短歌研究の新人賞を受賞するが、難病ネフローゼを患い、長い闘病生活のすえ退学せざるを得なくなる。路頭に迷っていた寺山に友人・谷川俊太郎がラジオドラマの執筆をもちかけた。「ジオノ・飛ばなかった男」はその時、寺山が初めて書いたシナリオである。青年・寺山修司の瑞々しい筆が冴えている。以後、1967年に天井桟敷を結成するまで、寺山は精力的にラジオ、テレビのシナリオを執筆することになる。
民放祭入賞。
1958年/ラジオドラマ/演出:久野浩平
○放送
1958(昭和33)年10月
製作/ラジオ九州
(現RKB毎日放送)
番組/ラジオホール
放送時間/30分
※ページ数とAmazonの設定上、サンプルのシナリオ本文が見れません。ご了承下さい。
770円(税込)
2018-06-04
寺山修司20代半ばのテレビシナリオ。いかにもテレビ草創期らしい、作家の個性が光る意欲作である。時代は60年安保のまっただ中、日本の若者たちは政治の渦に飲み込まれ、デモも過熱していた。東大生の樺美智子さんが国会での衝突で死亡したのはこのドラマが放映される4カ月前である。そんな世相の中、シナリオの主人公は右も左も関係なく次々に主要な人間を鼠に変えていく。そして、道ゆく人たちも。ついには自分の父親も恋人も。
昭和35年度芸術祭参加作品。
1960年/テレビドラマ/演出:石川甫/主演:田中邦衛、九条映子、山崎努、吉行和子
○放送
1960(昭和35)年10月
製作/KR(現TBS)
局系列/JNN
放映時間/1時間枠
990円(税込)
2018-06-01
ピエール・ブロンベルジュの依頼を受け、泉鏡花の「草迷宮」を寺山修司と岸田理生が脚色。オムニバス映画の1篇として1979年にパリで上映された。日本公開は1983年。オムニバスではなく「草迷宮」単独での上映となった。母が歌っていた手毬唄の歌詞を求めて旅を続ける私は、妖怪の住む屋敷に誘われていく。青年と少年の二人の私が入り組んで登場するシナリオは、寺山の「田園に死す」と同じ。過去、現在、未来が二人の私によって客観性をもって検証される。泉鏡花の怪異な世界と寺山ワールドが融合し、摩訶不思議な輝きを放っている。
1984年/文芸/監督:寺山修司/主演:三上博史、若松武、新高恵子、伊丹十三
○公開
1983(昭和58)年12月
制作/人力飛行機舎
配給/東映
上映時間/50分
(カラー・スタンダード)
990円(税込)
2018-06-01
寺山修司の遺作。柱時計は寺山ワールドに欠かせない小道具だが、「さらば箱舟」ではこれまでの作品以上に重要なモチーフになっている。柱時計が象徴するのは悠久の時間。悠久の時間とは生と死である。
村の空き地に突然出現した大きな穴が、時間をゆがめる。穴は生と死の世界をつなぎ、古代と現代をもつなぐ通路だった……。
当初のタイトルは「百年の孤独」。ガルシア・マルケス側と著作権問題で紛糾し上映が1年ほど遅れた。寺山は劇場公開される前に帰らぬ人となってしまった。
1984年/ATG/監督:寺山修司/主演:山崎努、小川真由美、原田芳雄
○公開
1984(昭和59)年9月
制作/劇団ひまわり
〃 /人力飛行機舎
制作・配給/日本ATG
上映時間/2時間7分
(カラー・ビスタ)
990円(税込)
2018-06-01
ロマンポルノなきあとシネ・ロッポニカの第二弾作品。マルキ・ド・サドの代表作「悪徳の栄え」の映画化である。原作ではテーマのひとつとして神がとりあげられているが、岸田理生は日本では馴染みにくい神を食べ物に置き換え、その食べ物を天秤の片方にのせ、もう片方には何をのせて人は生きていくのかという仮定をたてて、シナリオを書き始めた。原作は劇中劇としてとりあげられている。フランス革命前夜のサドを意識したのか、時代背景は昭和初期。二・二六事件が後半密接にからんでくる。岸田は次のように記している。
「時代背景を昭和初期とすること。貴族たちの日常と対立する場所として劇場空間を設定し、そこで原作に忠実な舞台劇を行わさせること、登場人物たちは、日常と舞台空間を行き来して、常に二役を演じること、などなどの発想は、監督との話し合いの中で次々に決まって行きました。
執筆時間が少なく、大変でしたけれど、楽しい仕事でした」
1988年/文芸/にっかつ/監督:実相寺昭雄/主演:李星蘭、清水紘治、牧野公昭、石橋蓮司、寺田農
○公開
1988(昭和63)年8月
製作/にっかつ
配給/シネ・ロッポニカ
上映時間/1時間36分
(カラー・ビスタ)
770円(税込)
2018-06-01
「ジオノ・飛ばなかった男」に次ぐ寺山修司23歳の時のラジオドラマ。
民放祭文芸部門大賞受賞。
山田太一は「中村一郎」について次のように記している。
そして、主人公に「ジオノ」とつけた第一作も「中村一郎」も、現実から羽ばたこうとして、飛び立たなかった男の物語である。飛び立てないのではない。飛び立たないのである。飛び立てるのに、飛び立てない。自分の力を人事られない。
「おしさんはね」と中村一郎は、町で出会った子供にいう。「空なんか歩けないんだよ」
「だって歩いたじゃないか」
「あれはまぐれさ。おじさんは英雄なんかじゃないんだよ。(略)こうして平凡にくらしてるのが一番いいのさ。幸福は平凡な毎日の中にしかないんだよ」
いうまでもなく、寺山さんは、そんな幸福を信じていない。「平凡な毎日が一番」だとも思っていない。それどころか、手痛く地面にたたきつけられることを恐れて自分の力を見限ってしまう臆病への反感はあきらかである。しかし一方で、無邪気に飛び立つほど自分の力をまだ信じられない。
自分は果たして飛べるのだろうか? 多くの平凡な人生がひしめく地平から飛び立って特別な存在になれるのだろうか?
ことによると、いじましい小市民たちの現実観通りに、現実はそんなに甘くないのかもしれない。
1959年/ラジオドラマ/演出:久野浩平
○放送
1959(昭和34)年2月
製作/RKB毎日放送
(元ラジオ九州)
番組/ラジオホール
放送時間/30分
990円(税込)
2018-06-01
「書を捨てよ町へ出よう」に続く寺山修司のオリジナルシナリオ。
1965年に刊行された寺山の第三歌集「田園に死す」から主要な短歌が抜粋され、シナリオの要所々々にちりばめられている。
それら短歌は寺山の少年時代を回想した自伝的要素の強い内容であるが、シナリオでは短歌が物語の道案内役を果たし、過去が検証されていく。
大人になってこのシナリオを書いている(映画を撮っている)現在の私と、登場人物の少年時代の私がシナリオの中で出会い、共に過去をのぞき見しながらその情景を吟味し、修正していく。そこに真実は求められていない。豊穣な情緒が圧倒的に渦巻いているのである。
1974年/ATG/監督:寺山修司/主演:八千草薫、春川ますみ、新高恵子、高野浩幸
990円(税込)
2018-06-01
浪漫堂名作シナリオ文庫第一弾。
寺山修司、初の35㍉による本格的な長編劇場用映画である。
最初は演劇として1968年、69年、70年と三年連続で上演された。舞台には「家出のすすめ」に共鳴した受験浪人の若者が大勢出演、寺山修司はズブの素人を巧みに活かす手法を取り入れた。
映画化されたのは71年。シナリオには、自作の歌詞が散りばめられ、青森から上京してきた自分自身を赤裸々に再現することによって、寺山ならではの世界が展開される。また、映画において言葉とは何か、カメラとは何かという根源的なテーマが、見世物小屋的なエンターテインメントとして、映像はもとよりシナリオにも挑発的に昇華されている。
サンレモ映画祭(イタリア)グランプリ受賞。
1971年/人力飛行機プロ、ATG/監督:寺山修司/主演:佐々木英明、斎藤正治、小林由起子、平泉征、丸山明宏