無法松の一生
550円(税込)
2020-02-03
1938(昭和13)年、伊丹万作は東宝で「巨人伝」を監督後、肺病に倒れ病床に伏す。シナリオ「無法松の一生」は、その病状が一進一退する合間に書かれ、脱稿したのは戦時下の昭和17年だった。伊丹は原作となった「富島松五郎伝」について、「無法松の一生について」(昭和16年12月)で次のように書いている。
「今の私の解釈を云うと、富島松五郎伝は、一つの風変わりな恋愛小説であるということに尽きる。(中略)これは、極度に抑圧せられた恋愛の一つの型であって、決して外の何物でもないのだ。例えば、敏雄に対する松五郎の献身的な愛情にしても、単に父性の本能だけでは説明がつかないが、抑圧せられた恋愛が形を変えて現れたものと見れば立派に説明がつく。つまり松五郎の場合、恋愛は形を変えて現れることはあるが、そのままではほとんど行動にも現れなければ意思表示もされないのだ。ことによると松五郎自身も、十分意識的ではなかったかも知れないとさえ思われる。そこにこの作の特殊性があり、同時に私の仕事の困難もある」
その「困難」はどのように克服されたか。ぜひ、シナリオで確認していただきたい。
底本:「日本シナリオ文学全集8 伊丹万作集」(理論社、1956年刊)
1943年/大映/原作・岩下俊作/監督:稲垣浩/主演:阪東妻三郎、園井惠子、沢村アキヲ、月形龍之介