盤嶽の一生
990円(税込)
2020-02-03
戦前に人気を博し、マスコミから大衆文芸と命名された白井喬二の同名時代劇小説が原作。「キネマ旬報」誌で山中貞雄はシナリオの構成が原作に忠実すぎたと反省している。わがままな領主とその圧政に苦しむ領民という構図をもっと浮き立たせたかったらしい。現実にそうしたシークエンスは国家検閲でカットされているという。
人間の誠実さをもとめる盤嶽が出会うのは人間の欺瞞に満ちた醜い姿。それでも盤嶽は理想を追い求めて旅をつづける。
新藤兼人は21歳のとき、たまたま尾道の映画館で「盤嶽の一生」を見て映画を志す決心をしたという。そのときの感動を次のように記している。
「メイン・タイトルと配役とスタッフが消えたとたん、流れるようなリズムがとらえた。そして代官が魚を食って、その食い残しを腰元が下げて、仲間部屋で下郎どもがグツグツと鍋で煮て、その匂いが窓からもれると、そこに腹のへった浪人盤嶽が立っている。
山中貞雄のシナリオは、導入部にさっと一筆おろしたようなうまみがある。単刀直入に無駄なく、見事にさっと一筆でしあげているのだ。映画の魅力はファースト・シーンできまるといわれているが、鮮やかなものだ。ほどよい省略は「間」と「スピード」のバランスで生まれるのだ」
1933年/時代劇/日活/監督:山中貞雄/原作:白井喬二/主演:大河内伝次郎、山本礼三郎、芝田新、谷幹一