荒井晴彦
新宿ゴールデン街を舞台にした日活ロマンポルノ。まだ何者でもない脚本家志望の青年が主人公、奔放な日々がやりきれなくて切ない思いで過ぎていく……。裸さえ入れれば何を書いてもいいといわれたロマンポルノは、裏を返せばシナリオライターのオリジナル性が問われた日本映画にとって稀有な現場でもあった。
同シナリオは荒井晴彦のデビュー作。ロマンポルノ屈指の傑作である。
荒井晴彦が「湯布院映画祭通信」83年夏に書いた文章を抜粋する。
「原稿を読んだ三浦さんが『新宿乱れ街 いくまで待って』とタイトルをつけた。監督が登場人物たちに××志望とタイトルを入れることを思いついた。俺たちを“志望の青春”と括ったのだ。ちょっと違うぜと思った。なりたいのじゃなくてなれないのだ。志望することにもウックツしていた。夢も志望もないのがホントのとこだった。大学をちゃんと出て、映画監督になろうと思って映画会社に入り、給料貰って助監督をやり、そりゃ、苦労はしただろうけど、結果オーライで、監督になった人には分んないだろうなと思った。
三浦さんがエイガじゃなくて芝居のハナシに変えられないか、アングラ劇団かなんかのと言った。会社が嫌がるんだよ、こういうの。俺は変えられませんと答えた。俺は日活への屈折した思い、憧れと反撥をやりたかった。これは女をメジャーに奪られたハナシなんだと思っていた。
撮影所の食堂で主演の山口美也子を紹介された。昨日、ホンを貰って、読んで、夜、泣きましたと美也子が言った。驚きました、どうして、こんなに……いろいろ思い出しちゃってと彼女は照れたように笑った。何と応えていいか分らず、俺も笑った。うれしかった。
この時、エイガをやろうと初めて思ったのかも知れない。三十になって半年、夏の初めだった。」
1988年/ロマンポルノ/青春/日活/監督:曽根中生神代辰巳/主演:山口美也子、神田橋満、余貴美子
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